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問いかけながら顔を寄せて頬ずりする。夏木が微かに肩を揺らして反応するのを楽しむように。
「はい、あの……お庭に咲いている紫のお花が……吸うと蜜が甘くて……」
「花の蜜?」
「はい……大人の方々からは、もう十二歳にもなって、いつ裳着をしてもおかしくない齢なのだから、子供じみたことはやめなさいと言われたのですが……」
「お前はそのままでいいのよ……夏木」
姫君が夏木の耳に唇を寄せて甘い声で囁きかける。熱をもって湿った吐息が夏木をくすぐった。
「ねえ……その花を一枝持っておいで。ここなら誰も見咎めないわ。二人だけで花を楽しみましょう?」
「清様に花を吸わせるなど……」
「夏木、お前のお気に入りを私には教えてくれないの?」
姫君が夏木の頬を手のひらに包みながら、つと顔を離して見つめる。姫君の瞳は薄暗い几帳の奥で濡れたように輝きを放っていた。
「いえ、そのような……清様がお喜びになることでしたら、この夏木は……」
「そうね、そんなお前は可愛いわ。私の心に添ってくれる。……では、すぐに戻っておいで?」
「はい……すぐにお持ちいたします」
「ええ。……待たせないでちょうだい?」
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