第一章

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 浮き名で知られた衛門督が「私など繁く文を送っているのですがね、全く相手にされていないのですよ。くちなしの姫君はまことにお心が堅いようだ。女房などに頼らず、もっと特別な伝手を使わなければならないのでしょうかね」と宰相の中将に目をやりながら愚痴をこぼすと、少将が控えめな声音で剣呑なことを言いだした。 「くちなわの喰らう姫とも言われているようですが」  しかし、姫君の兄たる宰相の中将は憤る様子もなく鼻で笑いながら口許を隠していた扇を閉じた。 「くちなわにでもならなければ、あのお方は喰らえないよ。まあ、秋には裳着を済ませて入内することになっているからね。真相は主上だけが知るのだろうね」 「入内いたしましたら中宮の宣下はすぐですか」 「少将は不満かい? お似合いの年頃だ。後宮には然るべき后もまだいない。主上とてお楽しみにしてあらせられる。さながら贅を尽くした雛人形のような好一対になられるだろう」  宰相の中将は、未来はすでに決したといわんばかりに話す。その目は人を見下してさえいる。姉を更衣にもつ少将は、妬ましさから、ならば自分がくちなわになろうかと思った。
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