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「ねえ、アルゼ。……僕のことが、好き?」
「大好きよ、ヴィル」
「いや、そういうんじゃなくてさ……男と、女として」
青白いアルゼの顔が、すっと紅をさした、気がした。
「……好きよ」
「よかった……僕も、同じ」
氷の指を握りしめ、アルゼのくちびるに、ぎこちないキスをした。その冷たさを確かめるように、何度も、何度もくちびるを寄せる。
降りしきる雪の中。
凍てつく星々の下。
白々とした夜明け前。
僕らは数え切れないほどのくちづけを交わし、互いの温度を確かめ合った。
「ねえ、君の絵を描いてもいい? この前、美術の先生に腕がいいって褒められたんだよ」
屋敷にスケッチブックを取りに行き、氷の上に腰を下ろした。
「私は、どうすればいい?」
「じゃあ、座って……僕を見てて」
その姿はまるで、白銀の氷像だった。紙の上でアルゼの輪郭をなぞる。その存在の愛おしさに、胸が苦しくて泣きそうになる。
「――将来、画家を目指そうかな。この別荘で毎日、君の絵を描いて過ごすよ」
「それってすごく素敵」
向き合う僕らの間に、かすかに春の気配が混じる風が吹いた。柔らかに残酷に、僕らの肌を撫でていく。
心の中、強く願う。
春よ、お願いだからその足を止めて。彼女の身体を溶かさないで。一秒でも長く、彼女のそばに居させて。
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