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熟睡できないせいでちっとも体は休まらないし、妻が優しいうちにどうにかせねば、と内心焦っているのだが、いかんせん寝つけない。
もう、睡眠薬に頼ってしまおうか――と諦めかけたとき、
「あんまり寝れない寝れないって言ってると、余計に暗示かけちゃうわよ? ほら、あんたの枕」
妻はそう言って、干したばかりの枕を投げて寄越した。
「おー、サンキュ」
礼を述べつつ、自分で頭の下に置く。
――こういうとこなんだよな。
ふっと笑みが漏れる。
昔みたいなかわいさこそなくなったけど、飯はうまいし、家事も家政婦級。だから、離婚はしない。……たぶん。
衰えたのはお互いさまだし、俺が捨てられない限りは、たぶん。
そんなことを考えていると、ふわりとかすかなまどろみが訪れた。
太陽の光をたっぷり吸いこんだ枕は、ほっこりとしたあたたかさで、頭と体にまとわりついた疲れを徐々にほぐしてくれる。
あれ、なんか眠れそうな――気が……
気がついたときには、辺りは夜の帳に包まれて、スマホのデジタル時計は二十一時過ぎを示していた。
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