マイ・クール・ラバー

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「何か嫌なことでもありましたか? 元気の出る料理でも作りましょうか」  仕事で凡ミスして、上司にしっかり叱られて、へこみながらなんとなく立ち寄った喫茶店。お水とメニュー表を持ってやってきた店員さんが心配そうにわたしを見つめている。初めて来た客にこんな優しい言葉をかけてくれるなんて、あったかいお店だ。 「お願いします。お肉、食べたいです。ありますか?」 「ええと、ハンバーグはどうですか?」 「ハンバーグ! 食べたいです」 「わかりました。すぐ用意しますね」  テーブルの上に置かれたグラスに手を伸ばしながら、立ち去っていく背中をぼうっと見送る。店員さんすごく姿勢がいいなあ。疲れているとどうにも頭の悪そうな感想しか出てこない。それに『お肉食べたい』とか喫茶店で言っちゃうわたし、なんなの。肉食べたいなら焼き肉屋でも行けよ、とか言われなくて本当によかった。  手持ち無沙汰になってしまって、開かずにいたメニュー表を広げてみる。ハンバーグがちゃんとお店のメニューとして存在していたことにほっとした。フードメニューが意外と豊富だ。ハンバーグが美味しかったら他のものも食べてみたい。なんなら制覇したい。 「もう少しかかりそうなので、サービスです。カフェラテ、飲めますか?」 「いいんですか? ありがとうございます。いただきます」
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