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すっかり胃袋を掴まれたわたしは、仕事帰りに毎日のようにその喫茶店に訪れるようになった。店員さん、もとい、安藤さんはこの喫茶店の店長でもあり、夜の時間は客入りが少ないこともあって、ひとりで切り盛りしているらしい。たしかにこの時間帯、あまり他の客と顔を合わせることがなかった。
定番メニューは早々に制覇し、最近では日替わりメニューを楽しみにしている。昨日は会社の同僚に食事に誘われてしまい、来られなかったのが悔しくて堪らない。
「こんばんはー! 今日も日替わりお願いします」
「かしこまりました。本日の日替わりは白身魚の香味ソース掛けです。食べられないものはありませんか?」
「大丈夫です。ちなみに昨日は?」
「昨日ですか? ビーフシチューでしたね」
なんということだろう、ビーフシチューを食べ逃したなんて。がっくりとうなだれるわたしを慰めるように「また作りますね」と安藤さんは声をかけてくれる。安藤さんが作る料理はどれも美味しい。今まで食べてきた一番美味しいものを次々に塗り替えていく。
「はーあ、毎日安藤さんのご飯が食べたい」
「いいですよ」
ひとり言のような呟きに返事をされて驚いた。思わず声のほうに振り返ると、安藤さんはすぐ近くの席に座って、こちらを見て微笑んでいた。
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