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「あの、わたしが言ったのは朝も昼も晩も安藤さんのご飯が食べたいってことで」
「はい。いいですよ。自分が作った料理をこれほど美味しそうに食べてくれる人はあなたが初めてです。ぜひ、作らせてください」
「えっと、わたしは安藤さんの料理も、会ったばかりですけど安藤さん自身も好きで……その、お付き合いしてくれるって思っていいんでしょうか?」
一歩間違えたら二度とこの店に来られなくなるようなことを訊いているという自覚はあった。けれど、安藤さんの思いがけない返答に驚き、戸惑い、心の中で思ったことがすべて口から出てしまう。
「はい。もちろんです。どうしますか? 僕があなたの家に行ってもいいですが、あなたが僕の家に来たほうが万全の状態で料理が作れます」
「えっと、じゃあわたしが行きます……?」
急展開も甚だしい。常連客と店長の関係が一気に恋人になって、いきなり同棲まですることになるなんて。彼の表情を見る限り、冗談で言っているわけでもなさそうだ。
「あなたの名前を訊いてもいいですか?」
「小川美結です」
「美結さん。これからよろしくお願いします」
「こちらこそよろしくお願いします。安藤さん」
差し出された手を握ると、優しく握り返される。さらりとした手のひらは、ひんやりと冷たくて気持ちが良かった。
「僕のことは類と呼んでください。恋人、ですから」
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