おまけ編 名前

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おまけ編 名前

翌日、熱が下がった引佐はいつも通り学校に行った。 いつも通りにすごし、お昼の時間になった。 「鈴木くん、行こう。」 日向は、パンが入っているであろうビニール袋をもって引佐に声をかけた。 「うん。」 引佐は軽く返事をして、日向について行った。勿論食べるのはいつもの校庭。 木陰のベンチに腰かけ、引佐は弁当を開けた。 食べ始めてしばらくたった頃。 「ねぇ、鈴木くん。」 日向が声をかけた。 学校ではまだ、田中日向と鈴木引佐として接している。 誰かに聞かれる訳には行かないからだ。 「何?」 引佐は卵焼きを頬張りながら答えた。 「鈴木くんは何で僕のことを名前で呼んでくれないんだい?」 「グォフッ…!」 いきなりの質問に引佐はむせた。 危うく卵焼きで窒息死するところだった。 日向は疑問な目をただただ引佐に向けていた。 混乱した引佐は逆に質問した。 「…逆になんで高木くんは名前で呼ぶの?」 「…」 日向は考えていた。 特に考えたことがないからだ。 「高木くん言ってたよね?同い年だから呼び捨てでいいかって、じゃあなんで、今は苗字読みなの?」 「そっれは…」 日向も黙ってしまった。 そういえばそうだ。 あのときは何故か勢いで名前、しかも呼び捨てで読んでいたが、今は呼んでいない。 考えたことが自分でもなかったのだ。 日向は考えに考え、閃いたように手を叩いた。 「あっわかった!」 そう言うと食べていたパンを一気に頬張り、呑み込むと、引佐の方を向く。 「瓶髄日向として、いたかったからだ!」 日向は引佐にぐいっと近づき、興奮したように話す。 「高木日向は大人しい性格だろ?だから、そんなに自分からグイグイ行く性格じゃないし、変に思われても行けないしね。それにみんな冷静沈着な日向くんの方が好きだろ?」 変に納得した日向は頷く。 「つまり、引佐にもっと、近づきたかったんだよ。」 引佐はいまいちピンと来なかったが、弁当を食べた。 日向は、 「僕は鈴木くんのことが好き、だから名前で呼びたいし、呼んで欲しい。」 日向は自分に言い聞かせるように引佐に問いかける。 「なんで鈴木くんは名前で呼んでくれないんだい?」 それは本当に純粋無垢な質問だった。引佐は少し戸惑い。 「…から。」 「え?何?」 あまりにも小声で横を向いて言葉を発した引佐の声を日向はききとることが出来なかった。 引佐は少し照れ笑いしながら 「恥ずかしい…からかな?」 何故か疑問形の言葉に日向は首を傾げた。 「だって、僕的には名前で呼ぶのは年上でも年下でも、勿論同い年でも親しい人や特別な人にしか呼ばないって思ってるから…その…つまり…」 少しもじもじしながら引佐は 「ただでさえ特別な人を名前で呼ぶのは恥ずかしい、高木くんは僕の憧れだから、名前で呼ぶのなんておこがましいし、もっと恥ずかしいよ。」 そう答えた引佐は弁当の残りを食べ、蓋をした。 日向は意外な返答に硬直していた。 それを見た引佐は戸惑って、 「あれ?僕何か変なこと言ったかな。」 不安になった引佐はおどおどしながら日向を見ていた。 日向は 「いや…いっ、鈴木くんがそんな風に思っているなんて、思ってなかったから。鈴木くんって、急に突拍子もないことを言うよね。」 そういった日向は少し顔が赤くなっていた。 引佐も自分の言ったことを思い返し顔を赤くした。 引佐は日向の方を向き、 「ぼっ僕も、名前で呼ぶよ。」 そういうと弁当をふろしきで包んだ。
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