第十話 天狼組

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第十話 天狼組

とある休日。 蝴蝶組屋敷で、瓶髄組との会議が行われた。 天狼組の件についてだ。 「てめぇらとは敵対していたが、今じゃ同じ穴の狢だ。まぁ、仲良くしようじゃねぇか。」 瓶髄組組長である松露がタバコを吸いながら、真正面に座る蝴蝶組組長の雅に話しかける。 しかし雅は、 「いや、仲良くする気も長居するつもりもない。要件を早く言え。」 松露は眉毛を動かし懸念の表情をうかべる。 「蝴蝶組組長殿とは会い寄れないなぁ…天狼組の足取りを掴んだ。」 後ろに座っている若頭2人が怒りの表情を浮かべる。 雅は至って冷静だった。 雅は問いかける。 「それくらいはウチでも掴んである。他にあるだろ?本題を言え。」 松露は薄笑いを浮かべながら床に置いてあった地図を取り出し、ある一点を指さした。 「ここが天狼組の屋敷だ。屋敷つっても、廃墟のビルだけどな。」 「っ!ここは!」 日向が松露の指さしたビルに反応する。 「日向、お前何か知ってんのか?」 日向は少し戸惑った様子だったが、松露の目を見て、 「ここは、蝴蝶組が出入りしてるって報告が入った廃墟の一つです。」 その言葉を聞いた引佐は驚いたが、至って冷静を装った。 日向の言葉にすぐさま反論する。 「それはありえない。我々は、その廃墟のビルとやらを見たことがない。」 日向の目をはっきりと見ながら答える。 考え込む若頭2人。 雅が口を開く。 「そっちの若頭さんの話は、実は本当かもしれんな。」 「!?」 引佐は驚いた。 まさか自分の組の組長からそんな言葉が出るとは思っていなかったからだ。 だが、すぐにその言葉の意味を汲み取ることが出来た。 「内通者…。」 日向が呟く。 内通者。 いるとすれば、辻褄があう。 松露がタバコをおき、 「内通者なら、うちの方からもいるかもしれねぇ、第一、誰がそんな情報を流したんだ?」 「それは…」 日向はそこまで把握していなかったのだろう。 黙り込んでしまった。 松露はため息をつき、雅に話しかける。 「そっちの若頭とウチのとで、明後日廃墟に行かせろ。」 「言われなくてもわかっている。」 若頭2人は一体何を言われているのか分からなかった。 引佐は雅に、 「お前は明後日、廃墟のビルに行ってもらう。くれぐれも気づかれるなよ。」 雅の一言に、引佐は硬直した。 寄りにもよって、危険な行動に、日向と二人で挑むことに不安になっていた。 それでも両組長は了承したようで、話は終わった。 引佐は自分が足を引っ張ってしまわないか不安で仕方がなかった。 瓶随組を見送り、部屋に戻りぐるぐると考えた挙句、その日は早く寝た。 天狼組の廃墟ビルに行くのは、金曜日の夜中。 翌日と当日の休み時間を使い、引佐と日向は金曜日のことについて話し合った。 「内通者の可能性も考えて、組長と若頭にしか伝わってないよね。」 「あまり大事にしたくないし、何かあったらいけないから、警戒していこう。」 学校から帰り、引佐と日向は乗り込む準備をしていた。 引佐は準備をしながら、とある人物を探していた。 長い廊下を歩いていると、霧島を見つけ、声をかける。 「おい、霧島。龍兄を見てないか?」 「ヒェッ、若頭、龍さんですか?…いやぁ、今日見てないっすね。」 「そうか。珍しいな。何も言わずに屋敷を離れるとは…」 黒印 龍(こくいん りゅう) 蝴蝶組の番犬として恐れられる黒印家の次男。 ついでに、引佐の朝食と夕食を作っているのは龍である。 引佐は部屋に戻り、考え事をしていた。 「蝴蝶組の一大事に龍兄が不在か。心配だな。」 引佐は外に行き、外で待っていた車に乗った。 廃墟のビルの前で、瓶随組と蝴蝶組が予定の時刻通り合流した。 引佐、日向と各組2人の6人という少人数。 何かあったら行けないと、外に2人見張りをつけ4人で中に入る。 人の気配がない廃墟のビルの中、ただ足音が響くだけだった。 「…誰もいない。おかしい、人数はいるはずだが。」 引佐が日向に声をかける。 日向は周りを見渡し、一方を指さした。 「あそこにドアがある。あそこがあやしいな。」 4人がドアに近づこうとした時、おもむろにドアが開いた。 警戒した引佐と日向は構えるが、ドアから出てきたのは。
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