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第十二話 書状
翌日、瓶髄組と蝴蝶組に1枚の書状が届いた。
送り主は天狼組からだった。
瓶髄組と蝴蝶組の会議がまた始まった。
今回は組長と若頭だけでなく、龍、桃冬、翠も参加した計7人で行った。
松露が煙草を灰皿に置く。
「てめぇらのとこにも届いただろ。」
そう言うと、1枚の紙を取り出した。
天狼組からの書状だ。
雅も天狼組からの書状を取り出す。
「内容は大したことない。脅しのようなもんだ。」
まだ、書状を見ていない日向が問いかける。
「親父、内容はなんて書いてあったんだ?」
松露が書状を日向に渡す。
翠もそれを覗き込む。
雅も引佐に渡し、龍と桃冬も覗き込む。
龍と桃冬に挟まれた引佐は窮屈そうに書状を見る。
文章を読んでいくうちに、引佐と日向の表情が険しくなる。
「…降参しないと、組員を拉致る。なんでこんなことを。」
日向が呟く。
しかし、桃冬と龍は楽しそうに笑っていた。
「へー、面白そうじゃん。拉致られるようなヤワな奴、うちにはいねぇもんな〜。」
「ええ、どこかの組と違って、こちらは優秀ですから。」
そう言うと、2人はくすくす笑っていた。
引佐が咳払いをする。
「今の天狼組にそんな労力、ないように見える。拉致ったところで、なんの意味もないだろう。目的は一体なんだ?」
文章を読んでいた翠が首を傾げる。
「天狼組はあの廃墟ビルだったはずです。倒壊してしまった今、どこを拠点にしているのでしょう?」
「あの廃墟ビルは拠点ではなかったのでは?」
龍が問いかける。
「倒壊したのは、天狼組が予め用意していた火薬でしょう。元々、違うところが拠点と考えた方が辻褄も会います。」
桃冬が大きなあくびをする。
「俺飽きたんだけど、帰ってい〜い?」
引佐が怒りの表情を見せる。
「桃冬。もっと真剣にしろ。」
そんな会話をしていると、1人の瓶髄組の組員が飛び込んできた。
「大変です!!天狼組の奴らが!!」
「ほぉ、またも懲りないやからですね。これはこれで虫唾が走ります。」
龍がわざとらしく身震いする。
桃冬はガラッと楽しそうな表情に変える。
「俺、そいつら殴ってきていい?丁度つまんなかったところなんだよね〜。」
そう言うと、桃冬と龍は立ち上がり、出ていってしまった。
「叔父貴、いいんですか?」
「構わん。あの二人ならどうにかするだろ。心配ならお前もいってやれ。」
雅が引佐を促す中、日向がたち上がる。
「俺も行く。」
引佐と日向も桃冬と龍の後ろを追いかけた。
外に出ると、何故か殴り合いが起きていた。
周りは何も無く住宅街から離れているとはいえ、ここまで来れば警察沙汰だ。
もちろん桃冬と龍は無傷だった。
「龍兄、桃冬、奴らから目的を吐き出させろ。」
「言われなくてもやってるよ〜ん。」
「中々吐いてくれませんね。」
バッタバッタと天狼組組員が倒れる音がする。
呆れた顔で日向と引佐は見ていた。
しばらくして、天狼組が3分の1くらいになった時だった。
翠が中から出てきた。
「日向様、天狼組の目的、わかったかもしれません。」
「本当か!?」
それを聞いた引佐と日向が翠に駆け寄ろうとした時、龍と桃冬の短い悲鳴が聞こえた。
後ろを振り返ると、龍と桃冬は頭をわしずかみにされていた。
驚いていると、龍と桃冬はよろけ、そのまま倒れてしまった。
手をはたくと、引佐たちの方へ近づいてくる。
帽子を深く被り、黒色のジャケットに身を包んでいて、顔がよく見えなかった。
日向と翠が警戒していると、帽子を脱ぎ、長い髪をひとつにまとめる。
引佐がため息をつく。
「もう足を洗ったんじゃないんですか?飛鳥兄。」
「何度も言わせないで、飛鳥姉様と呼びなさい。なんなのこの有様、天狼組も無謀だけど、アンタたちも大概ね。」
龍と桃冬は動く気配が全くなかった。
「龍と桃冬は相変わらず馬鹿ね、拳以外何も持っていないんだから。」
そう言うと、日向の隣にいた翠を見た。
「あら?アンタは、まだマシのようね。アンタならなんで天狼組が押しかけてきたかわかるんじゃない?」
「飛鳥兄…もしかして、」
飛鳥の口ぶりから何かを悟った引佐。
飛鳥は面倒くさそうに言う。
「だから飛鳥姉って…まぁいいわ。あたしの店にも天狼組の輩がまーた性懲りも無く来たから喝を入れてあげたわ。」
そう言うと、飛鳥は縦に手を振り、素早くチョップをする。
引佐と日向は寒気がした。
翠が持っていた資料を飛鳥に渡す。
「これが天狼組の資料です。私の見解も入っていますが、ほぼほぼ正しいでしょう。」
「ふ〜ん。瓶髄のくせにやるじゃない。」
そう言うと資料を受け取り、パラパラとめくる。
最後のページを読み終えた飛鳥は目を瞑る。
しばらくした後、飛鳥が目を開け、資料を翠に返す。
翠が受け取ろうとすると、飛鳥が翠の手を取る。
驚いた翠の顔を覗き込む飛鳥。
「アンタ、あたしのところに来なさい。」
「え!?」
日向が驚きの声をあげる。
翠は何が起こっているのかわからず、ただ、飛鳥を見ることしか出来なかった。
「アンタみたいな人材があたしの会社に必要なのよ。こんな瓶髄組なんかからは足洗ってあたしのところに…」
そこまで言うと、飛鳥の腕を誰かが掴む。
飛鳥が顔を上げると、桃冬が真顔で立っていた。
飛鳥が桃冬を睨む。
「…何?あたしに楯突く気?」
「その手離してよ。飛鳥ちゃん。」
「あんたには関係ないでしょう?」
飛鳥と桃冬が睨み合う。
その間には激しい火花が見えた。
翠が戸惑っていると、飛鳥がふっと笑う。
「何よ、やけにご乱心じゃない。桃冬らしくないわね。」
そう言いながら翠の手を離す。
桃冬が翠に話しかける。
「気をつけた方がいいよ。蝴蝶より瓶髄の方が弱いから。」
それを聞いた日向は顔を歪ませる。
桃冬が翠の肩を叩いてその場を離れようとしたとき、翠が桃冬の腕を掴んだ。
桃冬が振り返ると、真剣な顔をした翠がいた。
翠が口を開く。
「いつからそんな口を聞くようになったんですか?桃くん。私の方が年上でしょ?」
桃冬がすかさず答える。
「は?何言ってんのみーくん。今更年上面すんなよ。」
桃冬が翠の手を振りほどこうとするが、翠は真剣な表情のままだった。
「桃くんに警告されずとも、自分の身くらい自分で守れます。」
今度は翠と桃冬の間に火花がちった。
訳が分からず引佐と飛鳥が見ていると、日向が声を上げた。
「まさかっ、翠、お前のいとこって…」
翠が日向の方を向く。
「はい。桃くんこと桃冬は、私のいとこであり、弟のようなものですから。」
「おい、いつまでも弟扱いすんなよ、みーくん。」
飛鳥が驚きの表情を浮かべる。
「桃冬にいとこがいたなんて初耳だわ。」
「確かに、そんな話は1度も。」
引佐も同意する。
やっと翠が桃冬の手を離した。
桃冬が翠に掴まれていた腕をさする。
「ったく。その馬鹿力やめてよね。」
「桃くんが私のことを馬鹿にしたからですよ。」
翠と桃冬がまた火花を散らしていると、飛鳥が横たわっている龍の側へ行く。
靴で龍を軽く蹴る。
「いつまで寝たフリなんてしてるのよ。」
龍が体を起こし、立ち上がる。
「おや、見破られてしまいましたか。」
くすくす笑いながらそういう龍は少し曇った表情をしていた。
「あんたらしくないわね。天狼組について、なにかわかったんでしょ?」
「ええ、ですが確かな情報がありません。」
飛鳥が龍の耳元で囁く。
「ーーー」
それを聞いた龍はニヤリと笑った。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
それから約一週間が経った。
引佐はその1週間は、何も無い平凡な1週間だった。
それは恐ろしいくらいに。
普通なら、天狼組の件で忙しいはずなのに、平凡はありえないということは、引佐自信痛いほどわかっていた。
しかし、それからは飛鳥や瓶髄組とも会うことはなく、ましてや龍の姿すら見えなかった。
不審に思った引佐は、学校で日向に問い詰めた。
いつも通りの鈴木 引佐での口調ではあるが、話している内容は組に関することだった。
「日向くんは何か聞いてる?あの件について。」
日向は察したのか、周りに気を配りながら
「珍しいね。引佐くんがその話するの。」
日向はいつも通り答える。
「帰りに少しうちによっていくかい?僕も、そのことについて気になっていたんだ。」
引佐は頷き、自分の席に戻る。
戻った後に気づく、日向の家に行くことになったと。
「…あれ?ただ、どうなってるか聞きたかっただけなんだけどな〜。」
小声でつぶやくが、嫌という意味ではない。
むしろ緊張している。ド緊張だ。
瓶髄組の屋敷に入るのは初めてではないが、もしかしたら日向の部屋に入ることになるかもしれない。
引佐はそう考えていた。
自分の部屋にあげた時は緊急時だったからであって、今は別の意味で緊急だが、引佐にとってそれどころではなくなった。
そんなことを考えていたらあっという間に下校の時間になってしまった。
鞄に教材をつめていた引佐に、鞄を肩にかけた日向が近づいてきた。
「行こうか。」
そういうと扉の方へ歩き出した。
引佐も慌てて、日向の背中を追いかけた。
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