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第十五話 天狼組 組長
佐藤 四季 24歳 職業 教師。
という仮面を持った四季の本当の姿は、
天狼 四季 天狼組組長 。
その事実を目の前に、日向と引佐は今まで以上に動揺した。
佐藤先生が組関係者であること自体が予想外だったと言うのに、さらに追い打ちをかけるような事実だった。
引佐はふと、横にいた龍を見る。
まだ不敵な笑みを浮かべていると思っていた引佐はさらに動揺することになった。
いつもは冷静沈着、笑みを浮かべながら人を殴るところしか見た事がなかった引佐。
龍の手が震えていた。
表情はいつもと何ら変わらない。
しかし、その手は確かに震えていた。
その震えは武者震いとは違う、ただの恐怖そのものだった。
引佐はそんな龍を初めて見た。
日向も龍の震えを見て、今この状況がありえなく危ないことを理解する。
沈黙が流れる。
四季との間に不穏な空気が流れる。
想定外のことが連続で続く。
沈黙を打ち破ったのは、瓶髄屋敷からバタバタと出てきた桃冬だった。
「龍くん!!やべぇよ、飛鳥ちゃんが!!」
そう叫びに近い声を上げた桃冬の姿はボロボロだった。
「……あれ、なんで坊っちゃんがここにっ、」
桃冬が引佐に声をかけようとしたとき、誰かに強く殴られたのか、その場に勢いよく倒れた。
倒れた桃冬に蹴りを入れる男の姿が間もなく見えた。
その男は、誰かの腕を掴み引きずっていた。
龍はその誰かを見てすぐに青ざめる。
男が龍を見て笑みを浮かべ、引きずっていた誰かを投げる。
鈍い音がして壁にたたきつけられた誰かは、血だらけだった。
その拍子に、結んでいた髪がほどける。
引佐がその姿に叫ぶ。
「飛鳥兄!!!」
駆け出しそうになる引佐を日向と龍が止める。
「引佐ダメだ!今行ったら…。」
「そうです。あの飛鳥兄様がやられたんです。」
引佐は、落ち着きを取り戻し、わかっている、と2人に伝える。
それを見ていた男が嘲笑うかのような言葉をなげかける。
「きゃはは!あんたら血の気の多い連中だと思ってたけど、ちくっとは脳が使えるらしいな。」
男の視線は、引佐達から四季へ移された。
「なぁ?兄上殿?」
「……貴様の仕業か。桜夏。」
「勘違いするなよ兄上。これは天狼組全体の意見だ。悪く思うな。」
四季を見るその目は憎しみに近い。
「アンタが組長だなんて、俺らは誰も認めやしねぇ。出来損ないの長男様がよォ!」
そう言うと、後ろで震えていた天狼組組員に声をかける。
「てめぇらもいっちょん締りがねぇな。そんなんで……まぁ、いいや。今日は帰んぞ。」
「待て!貴様!!」
その場を立ち去ろうとした桜夏に日向が今まで見た事の無い剣幕で叫ぶ。
「俺の組で何したか、わかってんだろうな!!」
それを聞いた桜夏は、首をかしげ、ため息を吐く。
「何したかだって?それはこっちのセリフだガキ。覚えとけ、天狼組の組長は、この俺だ。」
そう言うと、天狼組の組員と、ぞろぞろと歩いていってしまった。
それを追いかける気には誰もなれなかった。
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「なんで長男って理由だけで、四季が組長になんだよ親父!!!」
幼い桜夏が、前組長に訴える。
しかし、その言葉が終わるくらいで、桜夏の頬を叩く。
「兄を愚弄するな、出来損ないの愚弟が。」
そういうと組長は、去っていった。
ズボンをつかみ、震える桜夏は決意する。
「絶対、俺が組長になって、あんなやつ、見下してやる!!」
そのやり取りを四季は見ていた。
自分のせいで争いが起きていることを、幼い四季も知っていた。
だからこそ、四季は、自分が組長であることに疑問と不安を持っていた。
「大丈夫ですよ、四季、あなたは賢いのです。」
「…お母様。」
ただひとつの救いが母だった。
「桜夏も、いつかきっと、納得してくれますよ。」
「……。」
黙ることしか出来ない自分がふがいなかった。
だから、強くなろうと決めた。
誰よりも。
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