第十六話 四人兄弟と

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第十六話 四人兄弟と

瓶髄組と蝴蝶組と天狼組の組長3人での緊急会議が行われた。 そこに、引佐、日向、龍も参加した。 「今回の件を話す前に、私の話をさせてください。」 そう言うと、四季は自分の過去について話し始めた。 自分には、桜夏 の他に、二人の弟がいること。 天狼組の前組長は亡くなっていること。 桜夏を天狼組の組長にしようとする支持者が最近になってではじめたこと。 桜夏以外の弟二人も、桜夏側についていること。 そして、天狼組を追放された弟が一人いること。 「天狼組を追放された私の弟を探しに来たのです。」 「それで、その追放された弟とやらは、どこにいんのかわかってんのか?」 松露が質問をする。 その質問に対し、四季は頷く。 「弟の名は、桃冬。聞き覚えがあるのでは無いですか?蝴蝶組の皆さん。」 その言葉に驚いたのは、引佐、日向の二人だけだった。 龍は、無表情のまま四季を見つめる。 「そりゃ驚いたな、天狼組と蝴蝶組が繋がっていたとは!」 松露が少し楽しそうに自分の膝をバシバシ叩きながら笑う。 さては酒を飲んできたな。と、誰もが思った。 「その桃冬を監視させるように瓶髄組にも一人、天狼組と関わりのある者がいます。」 「…翠だろ。」 「ご存知でしたか。」 「ご存知も何も、あいつは最初っから隠す気なんかなかった。だいたいあいつは女だ。」 「「え!?」」 日向と引佐はまたしても動揺した。 「翠が、女の人!?」 日向は今まで何度も会っていたのに気づかなかったことにショックを覚える。 「翠は、私の母の妹の娘で、自ら桃冬と共に天狼組を出た者です。天狼組から桃冬を守るために。」 「守るため?先生、いや、四季さん。桃冬に一体何があったんですか?」 「それを話すのは、翠が来てからではないと…」 そう言うと、松露は不思議そうに首を傾げる。 「翠は、天狼組に戻ったぞ?」 「え!?戻ったって、、どういう、、、」 「そのまんまの意味だ。自分の役目は終わったからっつって、天狼組からの迎えも来てたぞ。」 「それは、、春明 の 罠かもしれません。」 「春明?誰だそいつは!?」 日向が四季を問いつめる。 「天狼 春明(しゅんめい)。天狼家の次男で、翠の婚約者だった人です。」 「天狼組の次男っ!しかも、いとこで婚約って、、そんなの出来んのかよ。」 日向は、いきなり居なくなった翠のことが心配でならなかった。 「無理もありません。婚約者である春明を無視して、桃冬を助けたのですから。」 「教えてくれ四季さん。翠は、、桃冬は何者なんだ。」 「桃冬は、、私が追放した、天狼組の組長を継ぐはずだった男です。」 「な!?」 そこで、四季の目が揺らぐ。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 桃冬は、天狼組の5男として生まれ、そのたぐいまれない才能により、組長になることを期待されていた。 天狼組関係者は口々に言う。 「「桃冬様こそ天狼組組長にふさわしい。」」 しかし、その裏では、闇が広まっていた。 「幼い桃冬様が組長になれば、我々の思いがままに。」 「組長はもう長くは無い。桃冬様に我々のことを信頼させれば。」 純粋さを利用しようとするものが現れた。 組長は難病と戦う日々を送っていた。 四季は組長の座を継ぎ、桃冬の追放と言う命令を出した。 桃冬は龍や飛鳥のもとへ。 翠は監視を含め、瓶髄組へ。 しかし、最近になって桜夏側の人間が増え、天狼組で実質の内戦が起こっていた。 「今までは穏便に済ますことの出来ていた桜夏のイタズラも、よそ様に迷惑をかけるほどになってしまって。」 「桃冬が天狼組の組長候補だったなんて。」 引佐は信じられないと冷や汗を流す。 「妙ですね、翠の言葉が気になります。役目が終わったとは、いったい、」 そこまで四季が言いかけた時に襖が勢いよく開く。 「…俺、…俺は…みーちゃんを、守れなかった。」 「桃冬!!」 今にも倒れそうになっている桃冬を後ろから誰かが支える。 「飛鳥…兄様。」 「だから姉様だって言ってんでしょ!」 飛鳥がガチギレをしたところで、桃冬がゆっくりと膝をつく。 「天狼組の組長、、俺、天狼組にいた時のこと、あんま覚えてなくて、だから、だから教えてくれよ。俺の事も、天狼組の事も、俺が、俺が今しなきゃ行けないことも。」 「桃冬…。」 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー その日の夜。 「さすが飛鳥姉様。復活もお早いですね。」 「あの雑魚、無駄に打ち込んできただけで、あんま意味なかったのよね。喧嘩はアタシの方が上の上よ。」 「気絶してたのに。」 飛鳥が龍の耳を引っ張る。 「い、痛い痛い!!」 「アンタ、いい加減姉様って呼びなさいよね!それに…。」 飛鳥が龍の耳から手を離す。 「弟は弟らしく、泣いておけばいいのに。」 「…泣く?私がですか?そんな柄にも無いこと」 「ん。」 飛鳥が両手を広げる。 龍が不思議そうにそれを見ている。 「アンタ、いきなり理解力が無くなったわね。」 「飛鳥姉様の行動は東大生でも読めませんよ。」 「馬鹿、アンタだからわかるんでしょ。ほら、」 そう言うと、龍にハグをする飛鳥。 一瞬何をしているのか分からない龍は戸惑う。 飛鳥が龍の背中をゆっくりさする。 「アンタのあんな顔みたの、久しぶりだったわ。もしかして、アタシが死んだとでも思ったのかしら。」 「……兄様は、死にません。死んで欲しくありません。」 龍の目に涙が浮かぶ。 今まで冷静さを保っていた龍は、飛鳥に寄りかかるように手を飛鳥の背中に回す。 「それでいいのよ。アンタはアタシがいなくても…」 「俺は、、俺は姉様がいない世界なんて、認めません。兄様がいない組なんて、いる価値はありません。」 「何情けないこと言ってんのよ、黒印家を継ぐのは…。」 飛鳥は龍の強く握られた手に気づき、そこで言葉を止めた。 「そうね…アンタも、、」 満月の下、夜風が冷たく当たる。 「…アタシが本当の兄だったら、お前を救えたんだろうか。」 独り言が闇に消える。 叶うはずもないことを呟いて。
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