第五話 誤解の解消

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第五話 誤解の解消

組長に呼ばれた若頭2人は無言のまま長い廊下を歩いていた。 組長がいる部屋の襖の前で立ち止まった日向は声をかけた。 「親父、失礼しても?」 「あぁ、入れや。」 襖をあけ組長の後ろに座る2人。 タバコを灰皿に置いた瓶髄組の組長はふぅーっと長い息を吐き引佐の方を向いて話し始めた。 「さっきはちびっつって悪かったな。まぁ、知ってるだろうが瓶髄組の組長 瓶髄 松露(しょうろ)だ。仲良くしろとは言わねぇけど、若頭のこいつとは仲良くしてやってくれ。」 そう言いながら斜め後ろにいる日向を指さした。 まさか瓶髄組の組長がそんなことを言うとは思っておらず引佐は驚いていた。 「引佐。お前に大事な話がある。そっちの若頭もよく聞いとけ。」 雅が日向と引佐に向け、念を押すように声をかけた。2人の様子を見て、松露が話し始めた。 「今から話すことを、落ち着いて最後まで聞きやがれ、いいか?嘘じゃねぇからな。」 日向と引佐は一体どんな話があるのかと息を飲んだ。 もしかしたら蝴蝶組と瓶髄組の紛うことなき戦争が始まるかもしれないと。そんな不安を他所に松露は続ける。 「ここら辺に新しい組ができたらしい。名前は天狼組。だが、その組はブツに手を出すどうしようもねぇヤツらだ。おまけにこっちの組にも手を出してきたと来た。」 そこで、若頭2人はピンと来たのだろう。 ハッとした顔で松露を見つめる。 それに気付いた松露は尚話を続ける。 「その天狼組の奴等は自分たちのシマはウチから奪う方が手っ取り早いと考えたんだろうな。蝴蝶組と瓶髄組で争わせて、戦力が削りに削れたところで、優勢な方に加勢。もしくは、両方やってやろうって魂胆だろうな。相変わらず下衆な考えで、虫唾が走るぜ。」 そこまで話した松露は手元にあった最後の1本のタバコに火を付けた。そこにすかさず日向が疑問をぶつける。 「じゃあ、俺達が相手してた奴等は全員天狼組の野郎だったのか?」 ふぅーっとまた大きく息を吐く松露。 「日向、瓶髄組の下っ端どもを蝴蝶組の屋敷に行かせたのは何回だ?」 そう日向に問いかける。 「…1回だ、その時は蝴蝶組の組長はいなかった。それが3日前のことだ。」 やはり3日前のは瓶髄組の仕業かとカッとなったが、以前から面倒事を叩きつけられてただけあって1回では辻褄が会わなかった。 それに、日向が自分の組の組長の前で嘘をつく訳もなく。 嘘をつかせているわけでも無さそうだと判断した。 雅が引佐に問いかける。 「引佐。瓶髄組のとこに行ったのは何回だ?」 引佐は戸惑い無く答えた。 「0回だ。」 それに驚いたのか瓶髄組の2人の表情が険しくなる。 あれだけ厄介事をされたのにやり返さないはずがないと思ったのだろう。 瓶髄組の1回も少ないと考えていたからだ。 その表情の意味を読み取ったのか、引佐は腕時計を整えながら付け加えるように口を開いた。 「我が蝴蝶組は仁義を果たす組だ。手を出されたからと言って、襲撃をしかけても何も得ないからな。まぁ、あと何回かやられていたら、私自ら出迎えてやる気ではいたがな。」 そう自信満々に話す引佐を見て嘘ではないと判断したのだろう。 険しい表情が薄れた。 「まあ、お互い勘違いだったってことだ。蝴蝶。そっちは1回も来てねぇみたいだが、ウチは夜中に迷惑かけたみてぇだな。すまねぇ。どうかうちの奴らを許してはくれねぇだろうか。頼む…」 そう言って、松露は頭を下げた。 まさか、瓶髄組の組長が頭を下げるとは思っていなかった、引佐は驚きを隠せなかった。 さっきから驚きが耐えない。 この短い時間で、瓶髄組の印象が変わりまくっている。それに答える雅。 「頭を上げろ。今更そんな義理でもなかろう。同じ組長だ、そこは許してやろう。だが…」 そこで、雅が立ち上がった。 「次、勘違いかなんだか知らねぇが、うちのもんに手ぇ出したら、タダじゃすまねぇからな。覚悟しとけよ。」 そう言って、襖を開けた。 用が済んだと言わんばかりに、廊下をゆっくりと歩いていった。 引佐も松露と日向に軽くお辞儀をして、廊下に出た。 ゆっくり歩いていた雅を追いかけた。 「叔父貴…一体いつからわかってたんですか?天狼組の仕業だって。」 ただ、本当に疑問である今回の件はいつから検討が着いていたのか。引佐は単純に知りたかった。 雅はゆっくり足を止め引佐の方に向き直った。 「そりゃあ2、3回目ぐらいかな。1回目はいつものいざこざだろうと、気にも止めなかったが、さすがに2回、3回と来たら、何を考えているか疑問に思ってな。そこで、1度瓶髄組の組長と話をしたんだ、それがついこの間だ。」 そう語りながらまた足を進める雅。それについて行く引佐。 引佐はハッとした顔で雅に問いかけた。 「まさか、3日前の会議って…」 雅は歩きながら答える。 「ああ、そうだ。わざわざ敵だと思っているやつの所に、組の奴らは連れて行けねぇ、組長と一体一でケリはつけた。そこから若頭にも話そうってなり、瓶髄が呼び出した過程で、ここに来たわけだ。どうだ?わかったか?」 雅のスキのなさに感激する引佐。 この組で良かったと。 心から思うのだった。 ふと雅は呟いた。 「…玄関はどこだったっけな?」 「へ?」
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