第六話 新たな日常

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第六話 新たな日常

そこからは瓶髄組の下っ端に玄関まで案内してもらい無事に帰宅することが出来た。 下っ端は雅と引佐の鋭い眼光に当てられ半ば強引な形で、案内してもらったのは言うまでもない。 引佐は1度部屋に戻り部屋着に着替えていた。 だが、車の中でずっと考えていたことがある。 それは… 「…学校。どうしよう…」 1番の問題は明日が月曜日であること。 いや、何曜日でも変わりはしないだろう。 長期休みならまだしも、今日は普通の週末。 学校が明日に控えるのは当然のことだ。 何度も学校に行きたくなかった時はあった。 しかし、学校には希望があった。 そう、高木日向という存在が引佐にとってあまりにも大きな光になってしまっていた。 今、その大きすぎる光を失った引佐は1人部屋でもがいていた。 どうするべきか… 「平常心…そうだ。平常心だ。いつも通りに接しよう。いつも通り。いつも通り…」 ここで読者の皆さんに思い出して欲しい。 それは、日向が引佐に向けて言った、俺の事を嫌いになったか?という質問に対して、引佐は全否定していた。 そう…引佐は… 「…オールバックにした高木くん、めっちゃかっこよかったな〜。」 重度の日向ヲタクである。 そりゃあ、あれだけ太陽だなんだと言っていた存在。 ルックスや口調が変わっただけで、存在が抹消されることはありえなかった。 口調が大いに違うにもかかわらず、 引佐は日向という存在に感化されすぎたのだ。 「ほんとに…明日どうしょう…」 悩む引佐を前にしても、時計の針は刻一刻と登校時間への秒数を刻むのだった。 登校時間間近。 いつもならスッキリした朝を過ごす引佐だが、今日は違った。 朝食を摂る時も、手の震えが止まらず、箸を持つのがやっとな状態だった。 かろうじて朝食をとり、制服に着替える。 やっとの思いで玄関まで来たものの、外に出るのが怖かった。 こんなにも朝が辛いことはなかった。 だが、そんな姿を蝴蝶組の奴らに見られる訳には行かないと、半ば強引に通学路を重い足取りで歩いていった。 学校に到着した引佐。 いつもなら10分足らずで着く学校も、今日は、30分弱時間をかけて登校した。 まだ、ホームルームまで30分程ある。 「朝早く出ていてよかった…」 自分の席に鞄を置き、教科書類を無心で取り出していると… 「鈴木くん、おはよう。」 後ろから声をかけられた。 いや、挨拶はいつも交わすのだが、今日は心臓が飛び出るくらい鳴っている。 平常心を偽りいつもの何気ない笑顔で引佐は振り返る。 「…おはよう高木くん。いつも早いんだね。」 そんな何気ないやり取りも、なにかの取引を交わしているような感覚に陥ってしまった。 戸惑っていることを隠してはいるが、会話が続かない。 日向は引佐の前に立ち、目を見るように顔を覗き込んできた。 「ねぇ、今からちょっといいかな?話したいことがあるんだけど…」 心臓が飛び上がった。 あっ、この話は絶対に昨日のことだと察した引佐はどう答えるべきか考えていた。 状況的には断りたい、だが、高木日向のお願いを断りたくはない。 そんなことを回りきれない頭で考えていると。 「大丈夫、大した話じゃないからさ。五分くらいで終わるよ。」 いつもの口調で、安心させるように引佐に声をかける日向。 五分くらい…その言葉通りかは信用ならないが、ここで断ればビビっていると思われてしまう。 そう結論を出した引佐は平然を装って、 「わかった。いいよ。」 軽く答えた。 そこからは日向に無言でついて行ったが、鼓動はいつまでも頭の中で響いていたのだった。 引佐が連れてこられたのは、屋上。 相変わらず真っ青な空が屋上に来る人を待ち構えていた。 屋上の空を見た引佐は始業式の放課後のことを走馬灯のように思い出していた。 あの日あの時引佐は本当にこの学校を選んで良かったと心から思った。 ぼーっとしている引佐を手招きし、 フェンス前から街を見渡す日向が口を開いた。 「ここなら誰もいねぇ、素に戻って大丈夫だろう。昨日は本当に驚きの連続だったな。俺がまだ未熟だったことも思い知らされたぜ。」 そう笑いながら話す日向はどこか少し楽しそうだった。 それを少し警戒しながら聞く引佐は日向との距離を詰めようとしない。 それを不服そうに日向は見る。 「もう疑いは晴れたんだ。そんなに警戒しなくてもいいだろ?それとも、まだ俺の事を信用出来ないか?」 「! ちがっ…そういう意味じゃない。」 慌てて答える引佐は、言葉にするのが難しく つい俯いてしまった。 日向は引佐の方に向き直った。 それを感じたのか引佐も日向の方に視線を向けた。 まだ、険しい表情の引佐を見て少しため息をついた後、日向が軽く問いかけた。 「なぁ、引佐。お前はなんで俺の告白をOKしたんだ?」 「うぇ!?」
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