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第八話 混乱
引佐はその日の授業、全て集中出来なかった。
全てはあの朝のことが原因だったことは言うまでもない。
あのときの日向の表情が、頭から離れようとしない。
その日は珍しく日向は昼食に引佐を誘わなかった。
チャイムがなる途端、購買の方へフラフラと一人で歩いて行った。
いつも通り引佐は校庭で待っていたが、日向は来なかった。
そのままあっという間に放課後になった。
いつもならさよならの一言交わして帰宅するのがいつものことだが、日向は急いで荷物をまとめ引佐を避けるように教室を出た。
それを見ていた引佐の胸が少し痛んだ。
そんな自分自身に引佐は赤面した。
「何で私はあんなことがあったのに、普通に接しようとしていたんだ…」
傷ついたことが恥ずかしくなり、自分も震える手で、赤面した顔を必死に隠しながら鞄に荷物をつめた。
引佐は帰って直ぐに寝た。
何も考えたくなかった。
考えてしまえばまた混乱して、一人恥ずかしくなってしまうと思ったからだ。
胸が痛い、苦しい。
いつも声をかけてくれる日向が、今日は1度しか話しかけてくれなかった。
そう思ってしまう自分が腹立たしかった。
組長会議のとき別れを切り出した自分自身が、離れてやっと日向のことが好きだと有り余るほど理解してしまった。
このやりきれない気持ちを一人で抱え込むには多すぎる量で、引佐1人では気持ちの整理がつきそうになかった。
布団に入ったあともなかなか寝付けずやまない鼓動を宥めるように、胸を何度もさすった。
でもその効果はなく、考えれば考えるほど、鼓動は大きくなった。
そんなふうに考えていると、引佐はふと悲しくなり、涙が出てきた。
自分でもなぜ泣いているのかわからず必死に涙を拭った。
それを何回か繰り返した頃、引佐は規則正しい寝息をたて始めた。
それはまるで、泣き疲れた子供のようだった。
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