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第9話 告白
翌日、引佐は泣いたことが原因で学校を休んだ。
少し疲れが溜まっていたようで、軽く熱を出てしまった。
丁度その日は学園の総合会議日で、授業は午前中で終わる予定だった。
引佐は、自分で管理はできるとあまり説得力の無い言葉で、部屋に誰もいれさせなかった。
弱ったところを見られたくなかったのだ。
自分で作ったお粥を熱そうに食べる引佐。
久しぶりにゆっくり過ごし、みんなが学校に行っている間、引佐はゆっくり過ごした。
「久しぶりにゆっくりしたな。」
ガラス越しに外を見ながら、残りのお粥を食べた。
体調が少し良くなった引佐は、今のうちに明日の準備をしようと立ち上がり、鞄の置いてある方へ歩いていった。
学校の準備が済んだ後、引佐はもう一度布団に入り眠ることにした。
何時間経っただろう。
引佐は外の騒がしさに目を覚ました。なんの騒ぎだろうとマスクをしたパジャマ姿で様子を見ることにした。
あろうことか玄関は開けっ放し、つっかけを履き、そっと覗いて見た。
蝴蝶組の男3人に囲まれていたのは…制服姿の日向だった。
「…高木くん!」
引佐は咄嗟に声をかけた。
すると日向はこっちを向き、軽く手を振っている。
それを蝴蝶組の男3人が、ぽかんと見つめていた。
引佐は手で男3人を手招きし、玄関に入れ、事情を聞いた。
「おい、これはどういうことだ。一般庶民を巻き込むとはいい度胸じゃねぇか?」
一応日向を一般庶民として扱う引佐。
勿論、瓶髄組の若頭とは露知らず、男三人が一斉に弁明を始めた。
「すいやせん!若頭。まさか、あいつの言ってることが本当だったとは…」
「まさか本当にご友人だったとは…申し訳ございません!」
必死に頭を下げる男3人を見て引佐はため息を着いた。
「…私にも友人の1人や2人いる。もういい、下がっていろ。ここからは私がする。言い訳もなしだ。異議は認めん。」
そう言うと、引佐は手で散れと合図をし、男3人はその場を離れた。男達が去ったのを確認し、引佐は日向の方へ歩いていった。
近づいてくる引佐を見て、日向は静かに待っていた。引佐は熱がうつらないように、少し距離をとって話し始めた。
「…何の用だ。」
日向は手に持った鞄からファイルを取りだし、引佐に渡した。
「今日のプリント類だ。課題も入ってる。無理はしなくていいからしなくてもいいそうだ。」
引佐はファイルの中身を確認する。
数学の課題と諸連絡の紙が何枚か入っていた。日向の言葉が嘘ではないと確認し、一応礼を伝える。
「…わざわざ持ってきてくれたのか?貴様は家が反対だろう。こんなもの、教師に任せておれば良いのに。」
そう話す引佐を見て日向は少し照れくさそうに、
「お前と話したいことがある。」
ただ一言そう言った。
あまり蝴蝶組の屋敷前で話すのはまずいと思ったのだろう。
話の内容は聞かず、引佐は日向を手招きした。察した日向は引佐に着いて行った。
引佐は日向を家に招き入れ、自分の部屋へ案内した。
一応話の内容を聞かれないように、奥の部屋へ案内した。
熱がうつってはいけないと、少し距離をとり、座った。
「あまり長居はするな。貴様が瓶髄組の若頭とバレたら私が死ぬ。だいたい一般人の同級生が私の家を知っている時点で怪しまれるからな。茶は出せぬが話は聞いてやろう。」
やや上から目線で話をする引佐。
少し熱のせいで視界が揺らいでいるが、それを感じさせないための強がりでもある。
日向は頭を軽くかき、話し始める。
「…この前のことなんだが、すまなかった。」
「は?」
引佐はいきなり謝られ、一体何が起こっているのかわからなかった。
「何故貴様が謝る?あれはお互い様で…」
引佐はそこで、あの日の朝を思い出していた。
耳まで真っ赤になるのを自覚し、手でそれを必死に隠した。
「…」
「…」
二人の間に長い沈黙が走る。
日向は沈黙に耐えられず、別の話題を投げかけた。
「天狼組について、何か聞いているか?」
天狼組…蝴蝶組と瓶髄組をはめようとした、命知らずだ。
「いや…特に何も聞いていない。あの日から動きもみられていない。どこかで監視でもしているようで、気味が悪いな。」
「そうか…」
「…」
また、沈黙が走る。
引佐は決心して、問いかける。
「言いたいことがあるんなら。はっきり言え、言ったはずだ、長居は出来ないと。」
グイッとくる引佐に驚いた日向は、わかったと軽く返事をして、話し始めた。
「俺は…」
日向は引佐の目を真剣に見つめた。
「俺は、もう1回引佐に告白したい!」
「はぁぁあ!?」
引佐は驚き、つい大きな声を出してしまった。
日向はがむしゃらに引佐に訴えるように言った。
「あのときは引佐も咄嗟に出た答えかもしれないだろ?」
「なっそんなわけ…」
「だとしても、俺は納得できない。」
引佐が否定しようとしたが、日向は納得せず引佐に近づく。
「だから、もう一度はっきりさせたい。俺が納得いかねぇからさ。ダメか?」
「グッ…」
やや上目遣いで要求する日向を引佐は直視出来なかった。
日向が引佐を好きなように、引佐も日向を好きだということを理解しているからだ。
勿論今までの反応を見ての判断だが。
「俺は引佐のことが好きだ。これは今まで何回も言ってきた。でも、引佐からは聞いたことがないんだ。聞きたい。引佐の本当の気持ちを。引佐の好きなところだったら何個でも言える。引佐が言って欲しいと思うんだったら言うよ。恥ずかしいけど…」
最後はやや目を伏せ気味だった日向を、引佐は戸惑いながらみていた。
「…私は。」
引佐が口を開き、日向は引佐を見た。
引佐は戸惑いながらも辿り辿りに、
「私は…私も…」
やや震える手を押さえ引佐は決意し口を開いた。
「貴様と私は今は敵同士ではないとはいえ、友好関係にはならない方がいい。だから…」
「違う!」
日向は引佐の言葉を遮った。
「俺が聞きたいのは引佐の言葉であって、蝴蝶組若頭としてじゃない!引佐はどう思ってるんだ?もし、引佐が本気で迷惑だと思っているんだったら、もうこんなことは聞かない。ただ、引佐の言葉が聞きたい。」
あまりにも熱心な言葉を伝えられた引佐は日向から1度目を逸らし、目を閉じ深く深呼吸をした。
「私は…僕は…僕は、高木くんのことが…瓶髄のことが好き。多分、君が思ってる以上に好き。だから…」
閉じていた目を開け、ゆっくり日向の目を見て
「だから…別れたくない…です…。」
そう言うと引佐は直ぐにまた熱くなった顔を伏せた。
照れながらも引佐は日向に想いを伝えた。
それは、引佐自身の本心だった。
「…ありがとう。」
静かに日向は引佐にお礼を言って、軽く頭を撫でた。
引佐は子供扱いされたようで少し腹が立ったが、今は睨む余裕すらなかった。
日向も余裕ぶってはいるが、本当は自分も熱くなった顔を引佐の頭を撫でている手とは逆の手で、必死に隠していた。
引佐がこちらを見ないかヒヤヒヤしていた。
それくらい日向は見られたくなかった。
言い出した自分が、戸惑いながらも伝えてくれた引佐をどこか可愛いと思い、日向自身も戸惑っていたからだ。
気持ちが落ち着いて、何を話そうか迷っていると、日向は立ち上がり、
「ごめんな。引佐。長居しちまった。悪かったな。」
「別にいい。私も気持ちの整理が着いた。ありがとう。」
それから引佐と日向は玄関まで小走りで行き、家の前で別れを告げた。その別れも、
「また学校で。」
というたわいもない会話で終わった。
しかし、両者とも清々しい気持ちで別れることが出来た。
日向は引佐の気持ちを知ることが出来、引佐は早く風邪を治し、また学校で一緒に過ごしたいと思えるようになった。
今までは組への罪悪感や使命感があり、邪魔していた感情が解かれた。
また新しい日常が始まる。
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