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最初にあの人を見たのは多分入寮の時。
同じ部活で同じチームになる人。最初の印象はそんな程度のものだった。
走ることは好きだ。
踏みしめる足の感触も流れていく景色も、何もかも。
負荷をかけると息が上がっていくのも、乳酸がたまって足が重くなってそれでも一歩一歩は知っていくのも好きだ。
それ以外の事はあまり好きではない。
ご飯を食べている時、眠っている時は幸せだと思うけれど、それ以外は得意なこともあまりなかったし好きな物もなかった。
それが変わってしまった日の事を俺はよく覚えている。
放課後、校庭で汗だくだった。
夕焼けが滲むようで、校舎に反射して何もかもオレンジ色に見えた。
水道に行こうと思っていた。
佐久間さんは俺と一緒で汗をびっしょりとかいていて、何か声をかけた方がいいのかなと思った。
佐久間さんは一つ年上の先輩だ。
一人大会に出れる人間が決まればその分大会に出ることができない人間が生まれる。
よく言えば緊張感のある環境なのかもしれない。
大会に出るというモチベーションがいまいち沸かない俺にはあまり理解できない事だけれど。
その中で、選ばれることがほぼ確定している先輩。
そんな人と何を話せばいいのか、俺にはよく分からなかった。
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