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◇◇◇
颯人が好きだ。多分幼馴染だ。
いつからかはわからないけど、ずっと好きだった。
家は実はそんなに近くない。多分物心付く頃からお互いの家の中間地点にある公園で会っていた。
俺と颯人は表面上はそんなに中がいいわけじゃなかった。颯人はいつも同じ幼稚園の子と遊んでいたし。俺はその頃、一緒に遊ぶ友達もいなくて、だいたいが1人でブランコに座っていた気がする。
公園には1本の大きな楓の木があって、公園の端にあるブランコからだけ、その木の裏で泣いていた颯人が見えたんだ。俺は泣いていた颯人に『大丈夫?』って声をかけた。
颯人は誰かに見られてるとは思っていなかったんだろう。一瞬驚いて、決まりの悪い顔で俺に『誰にも言うなよ』って言って、色々文句を言った。
基本的に颯人はとても偉そうだったけど、別に体が大きいわけでもないから、よく他の体の大きい男子に喧嘩で負けていた。でも颯人は許せなかったんだろう。何かある度に俺のところにきて、ブランコの支柱にもたれて俺に背中を向けながら『体がでかいからって威張りやがって』とか文句を色々言う。
泣いていたのは最初に見たときだけだったけど、ひとしきり文句を言うと、『まあいいや』とか言ってニッと笑って、それでまた友達のところに戻っていった。
颯人は怒ったり愚痴る姿を他の友達には見せていなかった。だから他の友人には竹を割ったようなとか、一本気なとか、とにかく弱みを見せない男子と思われていたようだ。
颯人はそもそも強かった。颯人は自分のことは自分で解決していた。だからきっと1人でふらふらブランコに揺られている俺にとって、とても眩しかったんだ。
俺はただ颯人の話を聞いているだけで、何かの解決とか役に立っているわけじゃ全然なかった。でも俺だけがそんな颯人の弱い部分を知っている。そう思うと俺にとって颯人は何か特別な存在だった。
颯人は別にそう思っていたわけではないと思う。俺は他に喋るような友達もいなかったから丁度よかったんだろう。
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