冷たい人【BLのほう短編】

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◇◇◇  智司は多分俺の幼馴染だ。多分というのは、よく、わからないから。  智司は幼稚園のとき近所の公園にいた。だいたいブランコのところに1人で。俺は何か癪に障ることがあれば智司に文句を言いにいった。なんで智司に文句を言いにいっていたのかはよくわからない。無関係なのにな。  でも俺はそのころ負けず嫌いで、だから他のやつに弱みを見せたくなかった。智司以外は。  初めて会った頃の智司は俺よりヒョロくてなんだか頼りなかったし友達もいなそうだった。だからこいつなら漏らさないだろうと思って好き勝手話したんだと思う。多分智司が何も意見を言わなかったのもよかったんだ。もし意見を言うなら俺はすぐに反発していただろう。  智司は俺の後ろでブランコで揺られながら、いつも俺の文句を聞いてくれた。ずっと静かに。何故だろう。まるで嫌がらせだよな。虐めてたつもりはなかったし、嫌がっている様子でもなかったと思う。  それから俺は智司と一緒に遊んだことがない。智司に文句を言うだけ言って、その後他の友達と遊んだ。今思うと結構ひどい扱いだ。でもずっとそんな関係だった。  何か違和感を覚えたのは小学校4年生くらいの時だった。そのころ智司は俺と同じくらいの身長になった。放課後にグラウンドで捕まえた時、真正面の低い位置から照らすオレンジ色の太陽をうけて、俺たちから長く延びる影の長さがちょうど同じくらいなことに気が付いた。いつのまにか智司は俺と同じくらいの伸長になっていて、思ったほどヒョロくないことに気が付いた。  あれ? 智司ってこんなだったっけ。何か少し違和感があった。でも智司はいつもどおり『何かあった?』って俺に聞いた。だから俺はまあいいか、と思って並んで歩いて今日あった嫌なことを話した。  その時に話したことはあまり覚えていない。どうせいつもたいした話はしていない。智司はいつもどおり『そっか』と相槌を打ったと思う。  その時の夕方の太陽に照らされた智司の顔は俺が記憶していたより少し大人びていて、記憶との違いに驚いた。そして俺は智司のことを何も知らないことに気が付いた。一緒にいたのに、何も知らない。
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