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その時智司は同じクラスだった。なんとなく智司が気になって、ふとした瞬間に視界に入るようになった。そうすると、俺は学校で智司にほとんど話していないことに気がついた。幼稚園の頃と同じように。俺は学校での智司をほとんど知らなかった。なんでだ?
俺が今まで気が付いていなかった智司。
智司は友達がほとんどいなかった。話をする人がまったくいないわけではないようだが、昼飯はいつも1人で食って、休み時間は1人で本を読んでいた。放課後はうろうろしながらいつも1人で帰っていた。なんとなく後ろをついて行くと、本屋の前で雑誌を手に取ろうとしてる智司と目があった。
「帰り?」
「あぁ、智司は」
「俺も帰り」
「それ買うの?」
「見てただけ」
智司は雑誌を置いて鞄を肩にかけ直す。
まだ雑誌を開いてもいなかった。俺はひょっとして智司の平穏な生活を邪魔していたんだろうか。ふいにそんな気がした。
智司はひょっとしたら一人でいるのが好きなタイプで、俺が声をかけるのが迷惑だったんだろうか。いや、よく考えると迷惑だよな。俺は愚痴しか言っていない。
「何かあった?」
「なんでもない」
「そう」
無言で並んで歩く。いつもなら俺が何か文句を言ってるタイミングだ。だが今は特に文句があるわけじゃない。だから無言で並んで歩いた。
「大丈夫?」
「あぁ」
もうすぐいつもの分かれ道だ。何も話さなかった。よく考えると話しているのはいつも俺ばかりだ。
「なぁ、俺いつも愚痴ばっかりだからさ、悩みがあったら聞くぞ」
「悩み?」
智司は遠くの灰色の雲を眺めて、歩きながら腕を組む。頭が少し傾いている。改めて智司をみると、記憶の中と同じような、違うような、そんな、もう元には戻らないような変化を感じた。少しだけ。
「きのこ派? たけのこ派?」
「たけのこ」
「同志よ」
「うん」
それだけ話して、別れた。
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