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智司はまっすぐ俺を見ながら俺の愚痴を聞く。いつもだ。真剣に聞いてくれているんだと思う。穏やかな表情で。迷惑だったのかな。
でも俺にとって智司は特別だった。智司にだけは何でも言えた。多分どんなことでも。『幼馴染』だから? 一緒に遊んだこともないのに。
中3の頃から智司は急に身長が伸びた。180センチくらいになった。俺を5センチも追い越した。
でも中身はかわっていなかった。いつも俺の話を聞いてくれる。いちど嫌じゃないかと聞いてみたが、ちょっと微笑みながら嫌じゃないよ、と答えた。
嘘をついている様子にも見えなかった。
高校は別々になった。同じ高校を受けたことを受験の日に知った。でも智司は受かって、俺は落ちた。でも近くの高校だったから同じように帰り道によく会った。
智司はやっぱりいつも1人で、本屋とかカフェを眺めながらふらふら帰っていた。そんな智司とたまに目があって、でもなんとなく言う文句もなくて、無言で一緒に歩いて帰ることが増えた。たまに無理に誘っても文句を言うこともなく、ふらふらと智司はついてきた。
よくわからない関係。一緒にいると居心地はいい。俺が智司を振り回す。かといって別に無理強いしているわけでもない。多分。
何回も俺といて楽しいのかと聞いた。その度に楽しいと返ってきた。どこか行きたいところはないのかと聞いた。別にないと返ってきた。
ある日俺は鈴原さんに告白された。中高と同じクラスの人だ。
鈴原さんのことは正直よく知らなかったが、友人の評判はよくて試しに付き合ってみたらといわれた。他人事だと思いやがって。
でも俺は鈴原さんが好きなわけじゃない。だから、久しぶりに智司に愚痴を言った。でも智司はいつもどおりの穏やかな表情で微笑んで。『そう』といういつもの返事に一言付け加えた。
「そう。鈴原さんはいい人だと思うから、悪くないんじゃないかな」
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