ユニゾン

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最新型にはしないが中古品でそこそこ使えるものを探した方がいいのかもしれない。そこまで考えて、ふと気になった。 「なあ、そのボディって俺どこで手に入れたんだっけか」 【私には特に記録は残っていません。メーカーなどわからないのですか】 「なんか気が付いたらいたんだよなお前。15年……俺が4歳の時だろ。誰かから与えられたって思うのが普通だよな。親じゃないのは確かだし、4歳っつったらリハビリ中か。施設の試供品か? いやでもお前の中身見るとちょっと手作りっぽいんだよな」 【誰かが手作りして穹に与えたということですか】 「ダメだ、思い出せね」  そもそも施設にいた時の記憶はほとんどない。うすぼんやりと覚えているのは施設を出るときだ。その後は学童保育で寮生活をし、すでにシーナとの生活を始めていた。今まで疑問に思ったこともなかったが、シーナをどうやって手に入れたのかはまったく覚えていない。 【私のボディに何か気になることでも?】 「いや。誰かの贈り物ならボディ替えるのもなあって思った」 【穹にそんなセンチメンタルな部分があるとは思えません。頭大丈夫ですか】 「羽むしるぞ」 笑顔でそういえばシーナは飛び立ち冷蔵庫の上に避難する。 【心配しただけですよ、貶す意味はありません】 「あったらなお悪いわ」 【羽取られるといろいろ不便なのでやめてください、ただのボールになってしまいます。それはともかく、ためらうのなら無理に替える必要ないのでは。性能追加などいくらでも手はありますし。外付けハードディスクを買うだけでも十分ですよ。穹が以前悪乗りに走った物があるでしょう】 「あー。あれか」  まだ穹が中学生の時本格的にハッキング技術を上げようといろいろと悪乗りをしていた時があり、その時の手法やデータを詰めたハードディスクがある。それは逆ハックを仕掛けられた時に相手の操作を妨害するために使うジャミングプログラムが入っていた。中学生時代に作った物なので子供だましのようなものだ。人間相手にはその場をごまかすのに使えるが人工知能や大企業に通じるとは思えない。 「あれ使えるか?」 【私は今具体案が思いつきませんが。沙綾型の時に穹が使った策はいけるでしょう。あれは私から見て新鮮でした】 「一応聞くぞ、どんなふうに」 あまり褒められているような気はしていないのでやや半眼で見ればシーナは羽をビっと大きく広げた。これは人間でいうところのドヤ顔と一緒で自信のある回答の時に見せる動作である。 【穹の得意な姑息で卑怯でせこい手を性格悪い感じに詰めておけば相手は対処に困ります。人工知能はせこい手段は不得意です】 「お前今俺の事褒めてる? 貶してる? まあいいや、一個思いついた」 【さすがです】 「やかましいわ」 ハードディスクを取り出すとパソコンにつなげる。ひとまず中に入っているプログラムは大方削除した。これからやろうとしていることに必要ない。 【それで、何をするつもりですか】 「緊急時に使うためのフォローとバックアップを作る。作り終わったらもうちょい小型にしてお前のボディに繋げておく。普段は起動するなよ、パスワードはお前の中で鍵つけて保存しておく」 【私は使わないのですね、了解】  その後穹は数日かけてプログラムなどを作っていた。プロではないし一から作るのは非常に手間と時間がかかる。ある程度出来上がっているものを購入しオリジナル要素を追加していく。シーナもシステム面で手伝い作業をこなし、ついでにもう少しだけ性能のいいボディがないか探したりもした。しかし今のパートナーボディは5年ほど前に世代交代をしておりやっかいな点が一つだけあった。 「GPSに日本オリジナルの衛星測位システム使ってんのか」 ボディを探す前に今のパートナーはどういう特徴があるのか調べていたが、あまり大きなニュースにならず知らなかったがシステム面で大幅な変更が起きていることを初めて知った。シーナが壁に関連ニュースを映写し詳細をまとめる。 【以前はアメリカの衛星測位システムを使っていましたが、衛星システム技術の向上により日本は自国の機材を使い始めています。問題はこの衛星に大量の出資をしていたのがアンリーシュ運営に関わっているJCテクノロジー株式会社です。当時としては最高の技術と称した人工知能をおよそ3台搭載して打ち上げをしています】 「考えようによっては世代交代したパートナーボディはアンリーシュ側の小道具だって思った方がいいか」 【可能性はあります。しかもGPSというのがやっかいです。これの管理に次世代型を使っていたらまさかと思いますが衛生で打ち上げられたのは次世代型ということは】 「ないだろ、不完全なモンを手の届かないとこに送るようなリスクは踏まない」 【そうですね。海外のボディを探しますか】 「一応買ってはおく、使うかどうかはまた考える。パートナーボディはさすがにISO基準だろうけど結局はお国柄が出るからな、いまだにコンセントの形が各国で違うくらいだし。たぶんヘッドセットとの設定が合わないか、今と同じ性能で調整できない。非常時のテントくらいの感覚でいた方が良い」 ―――まさかこんなところまで進出しているとは思わなかった。人工で人間の肉体作ってるくらいだから油断できないと思ってたが、予想以上に世界に食い込んできてるんだなこの会社―――  果たしてそれは本当に人の意志なのだろうか。組織が大きく成ればなるほど社長のワンマン経営でなければ個人の意思などどこにもなくなり勝手に大きくなり身に覚えのない「会社の方針」というものが出てくる。穹の働くゲームセンターでさえ本部の意向に振り回されている。問い合わせると言葉巧みに各店の判断に任せると言われるが、一体誰が言い出したのかというような方針が来ることが多い。会社が大きく成れば派閥が生まれ足の引っ張り合いが起き、会社の為なのか個人の為なのかわからない内容の仕事が増えてくる。この会社も同じことが起きていなければいいが、と妙に覚めた気持ちで思った。  結局以前は管理できなかったのだ、人工知能たちを。人が作り出したものだから人が完璧に管理できていると信じていたはずだ。しかし思考の違いが起きた。人に逆らう意志を持った人工知能と、それを良しとしなかったユニゾン達と、そんな両者の思考を知りながら人工知能たちを手助けした次世代型人工知能。それの火消しか、逃がしたままにしておくには惜しいのかいまだに散らばったものたちを探すアンリーシュ運営陣。自分たちの尻ぬぐいさえできてない連中なんかに、絶対に捕まりたくない。 ―――冗談じゃない、察知もできずいつも事後処理しかできないあんな中途半端な連中に――― 【穹。目がイってます】 「……あ」 言われてはっとする。瞬きをして目の前の光景を見れば、目を覗き込まれる形でシーナがぴたりと顔についていた。 「近い近い」 【今思考が飛んでいましたね。2回呼びましたよ】 「そんなにか、気が付かなかった。つーか俺どんな目してる」 【この世で最大級に残念なものを見るような酷い顔をしていました】 ―――それはきっと、夜が最初に人工知能と戦っときに見たときの目だ――― 「ほう。つまりユニゾンとしての意識が強い時俺は夜と同じ顔してるってことだな。ざっけんな、あんなサイコパスと一緒にされてたまるか」  シーナを掴んで目の前から引き離すとべしっとローテーブルをたたく。穹にしてはやけに子供じみた動作にシーナはその行動パターンを分析した。以前からの夜に対する反応からある一つの仮説を立てていたのだが、この行動がその答えをより確実にしている。 【何自分で言って自分で切れてるんですか。ストレスパターンとして最もくだらない事例ですよ】 「だいたいあいつな! 沙綾型バラそうとして宵に取られたらじゃあ俺でいいやって。俺でいいやってどういうこっちゃ、何で俺がバラされなきゃならねーんだよ。思い出したらムカついてきた」 【穹、言いたくないのですが一応言います】 「言いたくないなら言わんでいい。絶対夜の事だろ」 穹が耳を押さえながら「あーあー」と言い始めたので尻尾のコンセントにあるUSBを穹のベルトに差し込み、チョーカーと同期をして直接骨伝導で音声を流した。 【夜に関わると穹は割と人工知能寄りから人寄りに戻りやすいです】 「あ、テメこのやろ。そういう使い方するなよ」  嫌そうに顔をしかめシーナのコンセントを抜く。今シーナから指摘されたことは穹自身が気づいていたことだ。あのVR空間にいるときは気にならないのだが、現実に戻ってきて夜の事を考えると一気に穹らしい思考に戻る。いや、どちらかというと夜と会話をしたからではなく。 「俺が人寄りの考えに戻るのはあいつがロクな事してないからだ。鼻噛まれて腕噛まれて首掴まれて殺される一歩手前で。並べるとほんとヒデエな、なんなんだよあいつ。いじめっ子にも程があるだろ。まあ夜はいい、本題は今そこじゃない」 【そうですね。もし私のボディを最新にしていたらいろいろと最悪な想定が浮かびます】  さすがにGPSを使って人工知能やユニゾン達の居場所を探し出すなんてことはできないと思うが、いずれそうするための布石であるとは考えた方が良い。着実に追われている、その布石は整ってきている。バトルでややこしい目にあっているのは主に人工知能が関わっているからだが、気づかないうちにじわじわ真綿で首を絞めているのはアンリーシュ運営側だ。バイト先の公式バトルイベントでは明らかにユニゾンを探していたように思える。
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