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「平気か?フェルム。息つく暇も無いとは、正にこの事だな。戦神は行方知れずという噂が出回っているが、この戦の激化はそれと関係があるのだろうか」 ナイフで目の前の敵に留めを刺し、槍の攻撃を避けて伏せたフェルムを狙った敵を片手で撃てるボウガンで仕留めた。 「ありがとう、ヴィア。それも戦神は、我らの集落を支配している神なのだがな」 集落の中で抜きん出て強かったフェルムは、今では同等かそれ以上に強いヴィアと組み、他の味方は遥か後方に下げ、たった二人だけで幾多の敵を殲滅して行った。 フェルムがヴィアと出会ったのは、力の神が支配する種族の戦士達を倒していた時だ。 突如として地面に閃光が走ったと思ったら赤い髪をした巨躯が倒れていた。 敵の一派かとも思ったが、なぜかフェルムにはヴィアの全身が一瞬輝いて見え、敵かも知れないという警戒心は露と消えてしまい、助け出し、家へと連れ帰ってしまったのだ。 介抱してやり、ヴィアの眼が覚めると、名前も住んでいた場所も自分が何者なのかも記憶が無いというので、 「では、とりあえず今日からヴィアと名乗り、集落には私の生き別れた兄だとでも言っておくから、記憶が戻るまで暫くオレと共に生きると良い」 親戚だなどと嘯けば、例え親戚でも環境柄、余所者には警戒し厳しくなる故、もっと近しい存在の方が良いだろうという配慮だ。 フェルムも実は余所者だが、子供の頃にこの集落の老婆に拾われて育てられた。 老婆以外の集落の人々は子供と言えども余所者だからとフェルムには冷たく辛く当たってきていたが、フェルムが戦いにおいて活躍し、一番の実力者となってからは誰も面と向かっては余所者という事に口出しする事も無くなって、今では集落の長の娘との婚約話が出ている。 それでも、老婆が亡くなってからは、フェルムはずっと孤独だった。 正式に婚約出来るのは長の娘が成人してからだったし、戦場においては誰も背を預けられる者は無く、それが孤独で寂しい事だと気が付きもしなかった。 しかし、ヴィアを拾ってから、戦に出ない日は共に寝起きし、戦神の恩恵に畑の実りは含まれておらず少ない出来だが僅かな収穫を二人で分け合って食べ、互いに打ち合って鍛錬し、終われば二人で水を浴びて畑の世話をし、夕方になればまた二人で少ない食料で料理をして食べ、お湯を沸かして背中を流し合い、藁に布を被せただけの布団で共に眠る。 戦がある日は二人だけで前線へ出て互いに背中を預けて戦い、滅多にないが万が一怪我をすれば手当をし合った。 そうやってずっと二人で過ごす事が当たり前になっていた。 だが、それも一年程で終わりを告げた。
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