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「神に勝つことは夜の水面に浮かぶ月を掴むが如く、負けることは咲いた花が枯れるが如く、か」
戦場にて、命のやり取りの最中に、うっかり咲き誇っていた花を踏んで悲しんでいたヴィアの姿を思い出す。
『短くも美しい命を、己の不注意で摘み取るような真似をしてしまった』
フェルム以上の強さを持っていながら、花ひとつでしょげる、繊細で優しい心を守ってやれればな、などと思ったものだ。
「随分と弱気だなぁ、枯れぬ花なら神の国にあるから墓に添えてあげようか?」
戦いの舞台に向かう途中のフェルムの呟きを、顔が見えないくらい無造作に金の髪を伸ばした神が拾って、返した。
「いいえ、必要ありません。私はただ、友の為に一矢報いることが叶えば上出来だと思うだけです」
「ふーん、そう。でも神が手遊びで作った人間には傷一つ付けるのさえ難しいと思うよ。神を殺るなら同じ神じゃ無いと。戦神の興味が無くなるまで地の果てまで逃げる方が簡単かも。でも、どうしてもって言うなら、胸を狙うと良い。どの神も、力の源がある部分が最大の弱点だから」
気さくにもフェルムの胸を人差し指でつんつんして教えてくれるのに、
「承知しました。ありがとうございます」
フェルムは人形呼ばわりをしない親切な神も居るものだと、初めて神の国に来て微笑んだ。
戦いの舞台に上がると、
「畑の神などと何を話していた?」
戦神が訪ねるのへ、
「戦神様のお耳に入れる価値もない、たわいの無い話でございます」
「良いから申せ」
何故か若干の苛立ちを滲ませて戦神が聞き返すのに、
「……神の国には枯れぬ花があるのだと、私の友に、花の短命さに胸を痛めた男がおりましたので」
「そうか。俺は脆くて儚いものは好きになれない」
こんな感傷的な話など一笑に付されて終わるかと思ったが、意外な応えに驚いた。
「俺に敬語など要らん。お前の敬語など虫酸が走る。武器は双剣のままで良いのか?槍も得意だったろう?双剣が届く範囲にはそうそう入れんぞ」
「俺の場合は槍は振った後の隙が目立つと、友に言われたのでな。このままでやらせて頂く」
「ふん、友はお前の事をよく見ていたのだな」
「……俺にとって掛け替えのない唯一無二の存在だ。だが……もう居ない」
「…ああ、そうだな。そろそろ構えろ。始めるぞ」
「其方は無手のようだが?」
「ハハッ、神の力は使わないとはいえ、我々神にとって武器を携えた人形など赤子が箸を持つようなもの。気にせず掛かって来るといい」
誇り高い戦士であるフェルムにとっては屈辱的な事だが、実際そうなのだろうと思い、それでもせめて一撃と気合いを入れて構える。
開始の合図が鳴り響いた。
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