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一足飛びで距離を縮めて斬りかかれば、それこそ赤子の手を捻るように簡単に手首を取られ、俯せに倒され、片膝で左腕を抑え、右手を背中に回す格好で左手で抑えられ、乗り上げられてしまっては起き上がる事など不可能だった。 「この状態でも得物を手放さないとは、流石だな。いつ如何なる状況だろうと、戦う意志を失えば死は確定する。だが……」 戦神がフェルムの右手首を抑える左手に軽く力を込めると、嫌な音を立て一瞬の間の後、手首に激痛が走った。 握っていた剣は流石に手から溢れてしまう。 「…っ!!…ぅ…っ……」 戦神は歯を喰いしばり痛みに叫ぶのを耐えているフェルムの頭を空いている方の手で梳き、 「……震えているな。痛むのか?それとも恐いか?可哀想に」 ヴィアと呼ばれていた頃、いつもフェルムの髪を洗ってやった終わりにしていた、耳の後ろを指先で擽る仕草を戯れにしてやれば、そこは苦痛から滲んだ汗で少し湿っている。 鼻腔を掠めるのは嗅ぎ慣れた匂いだ。 「くっ……」 諦めず拘束から逃れようと、もがくフェルムの上から戦神は避けて離れてやる。 簡単に押さえ付けられて右手首を折られても尚、残った左手で剣を握り締めて戦う意志見せる戦士に対する敬意からだ。 単純に、もう少し足掻いてくれ無いと詰まらないからというのもある。 神というのはいつだって退屈なのだ。 素早く立ち上がったフェルムの瞳は、怒りと屈辱に燃えている。 「いい子だ」 戦神は笑って上手に立てた幼子へと声をかける。 人形など戦神にとって虫けらの如く弱くて詰まらないものだが、フェルムも戦神にとって惰弱なものだが、こうして向かい合っていると僅かだが愉快な気持ちになれた。 そんな気持ちもすぐに終わるだろうが。 足元に落ちた剣を蹴り飛ばし、フェルムが剣を構えて再び斬りかかってくる。 戦神は、次で留めを指すつもりだ。
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