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冷たい手のあの人
「 あの……すみません。前にここにいた人は知りませんか?移動販売の 」
「 えっ!? 」
その僕が話しかけた女性は、驚いた顔をして僕を見ていた。
「 前に来ていた方のお知り合いですか? 」
「 いや。えっと、少し知り合いです…… 」
「 前の方は、もう来ませんよ。何か事情があった様な事は聞きました。何かはわかりませんが…… 」
「 そうですか…… 」
何か事情があって辞めてしまったという事なのか。そしたら、もう会えないって事なのかな。
僕の心の中の胸騒ぎは、こういう事だったのか。
僕はいつものベンチに座り、彼女が見ていたアルバムをもう一度手に取っていた。
「 ん? 」
彼女にあげた写真があった場所に、何か紙が挟まっている。僕はその紙を、ゆっくりと取り出した。
「 なんだろう、これ 」
『 ありがとう。君がいつも写真撮っている姿を見て癒されていました。私は、もうここに来る事はありません。いつか、また逢えますように 』
そこに挟まっていたものは、彼女が書いた手紙だった……。
そして、僕はカメラを取りだし、僕が撮った画像を見た。僕は、笑顔の彼女の写真を撮っていたんだ……。
何枚も。
僕の小さな恋は、冷たい手の彼女だった……。
癒されていたのは、僕のほうだった事に気づいた時には、彼女はもう僕の前から消えていた。
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