父の秘密

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 亜沙美は制服のまま、薄暗い父の書斎に入る。父の葬儀が全て終わり、明日から学校だ。亜沙美は葬儀の間中、心の何処かで父の約束が引っかっていたのだ。魚の小骨が喉に刺さった時のように。    あまり足を踏み入れた事ない父の書斎は、少しだけ埃っぽかった。父も最近は趣味に忙しく、書斎を使っていなかった。大きな窓は紺色のカーテンが掛かっており、亜沙美より身長が高い本棚には、ぎっしりと本が埋まっていた。真ん中には木目調の大きな机が置かれている。上には薄いノート型のパソコンが固く閉じられていた。母も私も最近はバタバタして書斎を片付けに入る余裕もなかった。  亜沙美は一階にいる母に気付かれないよう、音を立てないように、素早く父の机に近づく。早くこの部屋を出なくてはいけない。父が亜沙美だけに頼んだのは母には知られたくない何があるのかもしれないと、亜沙美は予感していた。  父の机の1番下の段の引き出しに手をかける。引出しは簡単に開いた。亜沙美が予想していたのよりもずっと軽くがらりと大きな音がした。その音に亜沙美は少しだけ身体を強張らせた。母にバレてはいけないのだ。  引き出しの中には、真っ白な封筒に入った手紙が一枚入っていた。亜沙美はその手紙を右手で掴み、そのままそろりと引き出しを閉めた。今度は音が鳴らないように。  そのまま封筒を抱えて父の書斎を飛び出す。 扉を閉じる直前に見た真っ暗な書斎は、主人を失った事を理解しているのか少しだけ寂しい感じがした。  亜沙美は、自分の部屋で封筒の中身を確認することにした。父の書斎から、自分の部屋まで足音を立てないように廊下を通る。廊下は封筒の中身を暗示するように、冷たさと薄暗さが何処までも広がっていた。  早足で自分の部屋に滑り込み、部屋の扉を閉めた。クリーム色のカーテンと、文房具が整理されて置かれた学習机。父が亜沙美の小学校の入学祝いに買ってくれた机だ。部屋の端には、ベッドが置かれていた。ベッドは黄色の花柄の毛布が一枚畳まれて置かれていた。亜沙美はベッドに寄って行きらベッドの上にどかりと座った。セーラ服のスカートがベッドに広がる。  亜沙美はベッドの上で、真っ白な封筒をよく見てみる。封筒には懐かしい父の字で、「亜沙美へ」と書いてあった。    父の思いを紐解くように、亜沙美はゆっくりと封筒に手をかけた。
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