父の告白・DAY1

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父の告白・DAY1

 それは大学3年の夏の話だった。うだるような暑さの中、俺は畳に寝転がる。少しだけ空いた窓からは、セミの鳴き声と生ぬるい風が部屋に入ってくる。畳はずっと窓からの太陽に晒されて、色はすっかりくすんでいた。少しだけ香る枯れかけたような草の匂いが好きなのだ。シャツと半ズボンが暑さで体にへばりつく。冷房をかければ良いのだが生憎冷房が1週間前から壊れている。買い換える金もなく、このまま放置しているのだ。あと2週間程すればバイト代が入る。それまでの辛抱だ。  俺はごろりと上を向きぼうっと天井を見上げた。木の板が張り巡らされた天井には、木目が広がっている。その所々違う木目を見ているとふと、顔に見えてくることがあるのだ。知らない女の顔や、老婆の横顔。色んな顔が並んでいる。  ぼうっと天井を見上げると、見つけてしまった女の顔。一度目が合うと木目が顔にしか見えなくなるのだ。俺はその女の顔を振り払う様にむくりと起き上がった。  今日は土曜日で大学も休みなのだ。彼女の理恵もバイトで、今日は会う予定は無い。暇を持て余した俺は、壁際に置いてある座卓の上に放置されているノートパソコンの電源を入れた。ぼうっとパソコンの画面を見ていると、パソコンが立ち上がる。このままYouTubeでも見て夜のバイトまで時間を潰そうかなんて、机に肘をついて考える。立ち上がったパソコンのインターネットのアイコンをクリックした。  そのまま、ネットに繋がる筈だった。聞き慣れない音がパソコンからなった。砂嵐のような音が。そのうち画面も乱れる。背中にぞくりと冷たいものを感じる。この前、大学の友達と面白半分で心霊スポットに行ったのが良くなったのか。俺は怖くなり少しだけパソコンから距離を取った。  心なしか部屋が冷えている気がする。そのうちノイズの隙間から、人の声が聞こえ出した。 「ねー、きーーる」  ほのかに聞こえる女の声に俺は怖くなり、パソコンに近づいたこのまま電源ボタンを切ってしまおうと。  俺がパソコンにグッと身を乗り出した瞬間ノイズが、止まった。目の前の画面には、白衣を来た女の顔が映し出されていた。真っ黒な髪は肩まであり、少し垂れ気味の瞳は優しさを携えている。頬は少しだけ染まっており、彼女が幽霊などではなく、生身の人間だと訴えかける。彼女の後ろには色々なパソコンの機材や、本が並べられており何処かの大学の研究室のようだった。 「こんにちは。」  女は画面の中から、俺に向かって話しかける。人懐っこい笑顔を携えて。俺と女の間に沈黙が流れる。固まる俺に、女はもう一度俺に向かって話しかける。 「私、あさみって言います。」  それが、俺とあさみの初めての出会いだった。 俺の顔や身体には相変わらず汗が伝う。生温い空気はそのままに、俺とあさみはしばらく見つめ合った。
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