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固まってしまった俺にあさみは黒髪を揺らしながら尋ねた。
「あなたの、名前は?」
目の前の画面に映る優しそうな少し垂れ気味の瞳が、とろんと落ちた。あさみは柔らかい笑顔で俺に話しかける。少しだけ蒸気した頬には窪みができていた。初めは気づかなかったがあさみにはえくぼがある。
「須藤雅之」
俺はつい、答えてしまった。得体の知れない、見ず知らずの女に。だがこの、あさみという女の笑顔は不思議と俺の警戒心を溶かしていく。
「じゃ、雅之くんだね。ごめんね。警戒して切らないで欲しいんだけど、私オンラインの研究をしていて、たまたま、あなたのパソコンに繋がっちゃったの。ねぇ、お願い。私の研究に協力してくれない?」
画面越しに映る、必死に頼み込むあさみの姿に俺は少しだけ興味を持った。
「何を協力すれば良いの?」
「私と画面越しに話してくれたら良いわ。私の作ったオンラインソフトがちゃんと機能するか試したいのよ。」
今日はバイトが入っているし、明日は彼女の美香とデートだ。その先だってバイトが結構な頻度で入っている。俺は腕を組んで考えた。
「俺も、予定が色々詰まってるんだよ。」
「2日間だけでいいから。今日と、明日10分だけでも良いわ。謝礼も払うから。お願い。」
あさみは両手を胸の前で合わせ画面越しの私に向かって頭を下げた。必死な姿に断る気も失せた。
「わかったよ。」
俺がそう言うと、あさみのたれ気味の瞳は更に下がり、頬には笑窪が浮かんだ。
「ありがとう。」
その人懐っこい笑顔に、パソコンの電源を切る気なんか全く失せてしまった。
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