父の告白・DAY1

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「話すって何を話せば良いの。」 俺は畳の上であぐらをかき画面を覗き込む。汗ばんだシャツが体に張り付いて気持ち悪い。 「オンラインが作動するか知りたいだけだから世間話で充分よ。雅之くんは何歳なの?」 「19。あさみは何歳?何の仕事してるんだ?」 「31歳。見ての通り、研究員やってるの。」  あさみの若く見える年齢から想像できない歳に目を見開いた。肩までの黒髪が優しく揺れる。 「随分、年上だな。」  俺が驚くと、あさみが照れた様に笑った。あさみが笑うたび、えくぼが窪む。オンラインは調子良く繋がっている。画像や声の乱れは一切ない。 「よく、言われる。雅之くんは、随分年下だったんだね。」 31と言えばもう結婚してる年頃だろうか。 「あさみは、結婚してるの?」 「してないよ。随分前に別れてからずっと一人ぼっち。」  寂しそうにあさみは笑った。よく笑う人だと思う。俺なんかよりずっと年上で包み込む様な優しさが心地よい。 「そっか。」  俺は何となく、彼女の理恵の顔が思い浮かんだ。あさみは理恵とは全然違ってワガママで活発だ。理恵にもこんな穏やかさがあれば喧嘩なんてせずに済むのにな、なんて。 「ねぇねぇ、雅之くんは彼女いるの?」   「いるよ。ワガママな彼女。」 「へぇ。なんて名前?」 「理恵」 「そっか。青春してるね。」 また、寂しそうにあさみが笑う。 「でも、最近喧嘩ばっかり。」 「じゃ、別れちゃえば良いのに。一緒にいてラクな人がいいよ。」  あさみが笑った。また、あさみのえくぼが窪む。過去の恋愛からのアドバイスだろうか。少しだけムカムカした気分が胸をよぎる。 「そうかな。」 「穏やかな人があってるかもね。」    穏やかな女性なんて身の回りに居るもんか。穏やかそうなのは目の前にいるあさみぐらいだ。年上の抱擁感というか、安心感というか。こんなあさみに、彼氏がいないなんて不思議だなと思う。  俺とあさみの会話は途切れる事なく、1時間ずっとバイトの時間ギリギリまで話していた。
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