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焼肉屋のバイトが終わった。もう0時を回っているので道は真っ暗だ。所々道端の電気が寂しげに揺れている。細い道で、時間も時間なので、もう人通りは全くない。俺は鞄から携帯を取り出すと、理恵に電話をかける。
暫くコール音が鳴った後、理恵が電話を取った。
「もしもし、理恵?俺だけど。」
『雅之?どうしたの。こんな時間に』
理恵の後ろがガヤガヤして少し聞き取りづらい。居酒屋だろうか。
「ごめん。明日会えない。」
『は?私と約束してたじゃん!!』
やはり予想通り、怒った。この時間に理恵の甲高い怒鳴り声は頭に響く。俺は電話機を少しだけ耳から離す。
「予定入ったから、無理。ごめん。」
あさみと約束してしまったから。
『あり得ないんだけど!なんの予定!?』
「うーん。大切な友達との約束?」
『私より、友達とるわけ!?ドタキャンとか、本当あり得ないんだけど!!』
自分は何度もドタキャンしてきたくせに。そういう所は本当に自分勝手すぎる。胸に刺さった棘が広がっていく。押し黙る俺に、更に理恵が喚き散らす。
『私を優先しなさいよ!!しないんだったらもう一生会わないから!!!』
いつもだったら、俺が謝り倒して収拾をつけるのだ。だけどもう、色々疲れた。バイト終わりで、只でさえ疲れてるのに。
「もういいよ。一生会わなくて。さよなら。」
俺は電話を切る。未練なんて一つもなかった。
切った後また、暫くなり続ける携帯。画面には理恵の文字。電話だ。俺はその電話が鳴る様子すらめんどくさくなり、携帯の電源を落とした。
『一緒にいてラクな人が良いよ。』
あさみの穏やかな笑顔が頭に浮かぶ。
オンライン上で出会ってから不意に何度も、何度も頭の中に彼女が浮かんでくる。
懐かしいような、温かい気持ちになる。彼女の優しい声のせいだろうか。
考えれば考えるほど、もう一度会いたくなってくる。不思議と。
俺はため息を吐き、星なんて一つも輝いてない霞んだ夜空を見上げた。
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