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プロローグ
「……あ……あ……そんな……どうして……」
淡い月明かりに照らされた真っ赤な教室。
鮮血に染まった箱の中で、少年は絶望の声を漏らした。
かつてのクラスメイトだったモノたちは、今、無残な姿で床に転がっている。
血の匂いが鼻をつく。
死体となったモノたちの目が、ギョロっと少年の方を向いた気がした。
「う……」
激しい眩暈と吐き気が少年を襲う。直視できぬ狂った光景。それから目を逸らすように少年は下を向いた。
その時――。
「フフフ……」
微かな笑い声が少年の耳に届く。
顔を上げた少年の目に映ったのは、教卓に腰かけている一人の少女だった。
長い足を組み、真っ直ぐ少年を見つめてくる。
そして、月の光に照らされた彼女の顔には、背筋がぞっとするような笑みが浮かんでいた。
「なんで……どうしてこんなことを……」
少年は少女に向かって問いかける。
すると、彼女はぴょんと教卓から飛び降り、ゆっくり少年へと近づいてきた。
「あらあら、おかしなことを言うのね。まるで『こんなことになったのはお前のせいだ』って聞こえるわ」
「そうじゃないか! だってこれは――」
少年が声を荒げた瞬間、少女はすっと右手の人差指を少年へ向けた。
「勘違いをしてはいけないわ。この状況を望んだのは、他でもないあなた自身。私はほんの少し力を貸してあげただけよ」
「僕が……望んだ……」
少年は、少女の言葉を否定できなかった。
そんな少年に対し、少女はさらに続ける。
「前にも言ったけれど、私はサンタクロースじゃないし、まして天使でも悪魔でもない。私を天使にするも悪魔にするも、あなたの選択次第なの。だってこれは、あなたの物語だから」
少女はそこで指を下ろし、すっと視線を窓の外へ移す。
少年が彼女の視線を追うと、そこには青白く輝く月が浮かんでいた。
「フフ、月が随分と下がってきているわ。あなたの物語もクライマックスね。でも――」
少女は再度少年へと顔を向ける。
美しくも妖しい、おおよそ人間のものとは思えない笑顔を。
「結末はまだ書かれていない。だから私に見せて。あなたが思い描く最期。あなたが本当に望む願いを」
その瞬間、少年の脳裏にこれまで生きてきた記憶が走馬灯のように蘇った。
物心ついた時から今日までの記憶が浮かんでは消えていく。
そして、最後に残ったのは――今しがた見た少女の笑顔だった。
それが何を意味するのか、少年は瞬時に理解する。
そして、『願い』を決めた。
「僕は――」
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