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ちゃんと整えて出てきたつもりだけれど、もしも髪の毛なんかが落ちていたら申し訳ないな、と私は余計なことを思った。
「先生、もう一個のベッドも使えるようにしたらどうですか?」
「あー! 待ってくれ、今話しかけないでくれ。早速の山場なんだ」
久美先生は丸い駒を持ってううんと唸っている。私は呆れ混じりにため息をついて、無意識に視線をさまよわせた。
私たちが座っている長机の奥には、カーテンで仕切られたベッドが二台置いてある。人が多いときに臨時で使う為か、余分にもう一台折りたたみ式の簡易ベッドまで用意してあった。
しかし久美先生は何かと横着な性格なので、布団が敷かれているのは窓際にある端っこのベッドのみだ。
シーツと枕カバーを何度も取り替えて洗濯するのが面倒らしく、よっぽど混雑していない限りは一台のベッドで乗り切ろうと頑張っている。
私は視線を定め、カーテンの隙間から覗いている抜け殻みたいな上履きを見つめていた。
つま先のあずき色は、彼が私と同じ二年生であることを示している。
けれど名前はいつまで経ってもわからない。約二十人ずつの二クラスしかない学年で、私たちには未だに挨拶すら交わしたことがなかった。
しばらくすると、すぐに決着が付く。今日も先生の負けだ。がっくりとうなだれた肩に私はくすりと笑った。
「あーわかったわかった。バックギャモンはもうやめだ。次は別のゲームにしよう。代わりに人狼はどうだね」
「私、あんまりルール知らないですけど」
「なぁに簡単だ。他人を信頼し、説得するゲームだよ」
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