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飯塚久美先生は、私が一年生の頃にやってきた臨時の養護教諭だった。
高齢出産の影響で早めの産休、そして長めの育休に入った厳しくて真面目な伊藤先生とは違い、年が近くてフランクで、話し上手な久美先生は生徒の間でも人気が高い。
ちゃん付けで呼ばれ親しまれているのは、飯塚という名字の先生がもう一人いるから、というだけではなく、その性格も要因のひとつだろう。
黒縁の眼鏡をくいくいと持ち上げながら真剣な顔でおかしなことばかり言うので、ほとんどの生徒は保健室を出て行くときに笑っている。
先生との付き合いが長い私だけは、無表情で相槌を打つだけだ。
彼女たちのように大声で笑っていたのはいつの事だろう。
私は家でも学校でも下ばかり向いて、常に口をへの字に曲げていた。
久美先生はちっともめげないし気にもしていないけれど、私は私のことが気になるし、気に入らないし、何なら幻滅している。
「失礼します……」
その時、閉め切っていたドアがゆっくりとスライドした。立っていたのは片方の手をポケットに突っ込んだ目つきの悪い男子だ。
夏休みを過ぎた辺りから、よく顔を出すようになった。
「また君か。見てわかるだろう? 私は今忙しいんだ。仮病ならそこの空いているベッドを使いなさい」
彼は無言でベッドの方に歩いて行くと、私が先ほどまで横になっていたベッドに潜り込んだ。
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