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エピローグ
さなぎさんに支えられながらよろよろした足取りで蔵を出た。廃墟と化す料亭の敷地へ流れるように視線を向けるとそこにお兄ちゃんが立っていて、地面には男たちが蹲っていた。
「月ちゃん、平気?」
遅れて縄を解かれた桐沢くんが、腹部を少し曲げて片方の足を引きずりながら出てきて、私はすぐさま駆け寄った。
「私は大丈夫っ! 桐沢くんこそっ、いっぱい怪我したよね?」
桐沢くんの柔らかいクセ毛の乱れた前髪を、泣きながら撫でた。
「囮って、どういうこと……?」
本当は、さなぎさんのひとことですべてを悟ったけれど拗ねるように聞いた。心配かけてごめんね、と謝りながら身を起こした桐沢くんが、私の肩越しの先に指を向けた。
「あれ見て、月ちゃん」
桐沢くんの視線を追って振り向くと、お兄ちゃんの方へ走っていくシホさんの背中があった。
「――わっ」
思わず小さく声が出た。
お兄ちゃんは気まずそうにしながら、それでも近づいてくるシホさんを待っている。
「……もしかして、このままうまくいっちゃうパターン?」
心の声が口から出る。
「柊にはジュンがヒーローに見えてるかもな」
そうだったら嬉しい。
「俺はこう見えて友達想いなんだ」
耳元に恰好つけた桐沢くんの声。
傷らだけでおどける桐沢くんが痛々しくて、いつものようにパンチのお見舞いはできなかった。
「まったくもう、こんなになっちゃったっていうのに……」
解けた緊張と、あんなにも切望していた日常が戻ってきた嬉しさに私は――
また、ぼろぼろと泣いた。
おわり
『兄の始まらない恋の行方を応援する』をお読みいただきありがとうございました。
~さなぎさんの立ち位置、気持ち、お兄ちゃんとシホさんの進展は? 月子と桐沢くんの未来は? などなどのエピソードはまた、いつかの機会に~
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