前編・不埒な計画

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「保険証がないからひとまず全額支払ってもらうようになるの。それと警察へ診断書も必要だとおも――」 「それは後で」  看護師さんの言葉を遮る。「金は俺が払います。近くにATMありましたっけ」  お兄ちゃんは立ち上がった。余計な詮索をされる前に先手を打つ腹積もりだ。 「病院の中にあるわよ。でも、大丈夫?」  看護さんが心配そうに尋ねる。 「問題ないっす」  お兄ちゃんが急ぐ理由は他でもなかった。  憧れの女の子が都合よく記憶を失くし、思いがけずカレシになれた。それなのに家族へ連絡などされたらお兄ちゃんの計画は台無しだ。そう、お兄ちゃんはヨカラヌコトを思いついた。それはもうとんでもなく大それたことなのだが、お兄ちゃんの暴走を止める人間は今そこにはいない。 「お世話になりました」  なけなしの貯金を引き出して彼女の治療費を支払い、本能に従ってお兄ちゃんはシホミヒイラさんこと、ヒイラギシホさんを家に連れ帰ってきた。   *--**--*  「月子、ちょっと来い」
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