プロローグ

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プロローグ

    その人に会ったのは今日が初めてだった。  にもかかわらずどこかですれ違ったら、私は彼女の名前をすぐに唇に乗せることができる。  彼女の名前は、ヒイラギシホさんと言う。  漢字でどう書くのかは知らない。ただ、中学生だった頃のお兄ちゃんやその仲間たちが彼女の名前を無駄に連呼していたから、隣の部屋にいた私は覚える気もないのに彼女の名前を記憶に留めることになってしまった。  お兄ちゃんの部屋には彼女の写真があった。  掃除をするお母さんと一緒に何気なく足を踏み入れて、発見した。裏にはイニシャルが書き込まれていた。Shiho-H。  ――あんまり触るとお兄ちゃんに叱られるわよ。  お母さんに言われて、慌てて元の場所へ戻した。枕の下へ。
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