前編・不埒な計画

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「いいかい、ひったくりに遭った場合は荷物よりも、まず自分だよ。相手はバイクだっていうじゃないか。アクセルを踏まれたら手を離さないと。荷物が大切なのは分かるけど、それでこんな怪我をしたらなんにもならないだろう」  そして、医師はお兄ちゃんにも言った。 「きみも、十分気をつけてあげなさい。ただし、仕返しをしようなんて物騒なことは思わないようにね」  腕にタトゥーをした若者を前にしたら、健全な大人は皆同じように思うだろう。口に出すかどうかはおいといて。 「ここから先は警察にまかせなさい」  他人からの決めつけが大嫌いなお兄ちゃんだが、今はそんなことはどうでもよかった。 「わかりました」  素直に萎れたふりをしているが、早くこの場を切り抜けようとしていることは明白だ。お兄ちゃんを知っている人なら気がつくのだが、他人には無理だ。  看護師さんが医師になにやら耳打ちをし、次いでお兄ちゃんに小声を向けた。 「あのね、今日のお支払いなんだけど」  
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