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チャイムを鳴らすと玄関ドアを開けてくれた。ドアがパタンと閉まった瞬間、佐々木さんは壁に僕の体を押しつけて、唇にキスをしてきた。 「んんっ」 突然のことだったので驚いてしまって、思わず佐々木さんの体を拳で叩いたけど佐々木さんは唇を離さない。そのキスに、僕は力が抜けてきて拳を説いて、佐々木さんの体に抱きついた。暫くするとそっと唇が離れていく。佐々木さんは僕を抱きしめ、片方の手で前髪を上げる。 「ごめんね。我慢できなくて」 こうやって佐々木さんに抱きしめられてキスされたなんて、信じられない。でもじわじわと実感がわいてくる。ああ本当に、神様ありがとう! 「佐々木さん、意外と強引なんですね」 僕がそう言うと佐々木さんは笑いながらこう、呟いた。 「俺も、名前で呼んで」 ほら、やっぱり、強引だ。俺は笑ってキスをする。 「好きだよ、唯史さん」 キスを終えるとそのまま、部屋に通された。 以前来た時より少し綺麗になっている。こちらがいつもの部屋なんだろうな。 リビングに通されて、佐々木さんがコーヒーを淹れてくれている間、僕はボーっとしていた。押しかけて、キスまでしたはいいけどこの後どうしよう。どんなタイミングで帰ればいいんだろう。そう思っているうちに、佐々木さんがコーヒーを持ってきてくれた。さっそく一口飲むとホッとして、少し気持ちが落ち着いていく。 「和馬くん、この前行ったスペイン料理のお店覚えてる?」 「もちろん覚えてます!美味しかったし、佐々木さ…唯史さんと行ったから…」 「そっか。じゃまた行こう。今度はデートだね」 僕は危うくコーヒーを吹きそうになった。佐々木さんこんなに押しが強いなんて、意外すぎる。僕が頷くとニコニコ嬉しそうな笑顔を見せた。 「嬉しいな、和馬くんとこうしていられるなんて」 「そ、それ!僕のセリフですよっ!」 調子が戻ってきたね、と佐々木さんはさらに笑う。なんだかようやくいつもの僕らに戻ったような気がしてホッとする。そうやって一時間くらいして、時計を見るともう結構な時間だ。佐々木さんの朝の仕込みを邪魔する訳にはいかないし、そろそろ帰ろうとした時。佐々木さんが僕の手を取る。 「和馬くん、一人暮らしだったよね」 「うん。そうだけど」 「今日、泊まっていきなよ」 「え」 「大丈夫、変なことしないよ。俺も朝早いし。鍵は明日、店で渡してくれたらいいから」 ドキドキと鼓動がまた早くなる。確かに帰るのが寂しいなとは思ったけど。本当に甘えていいのだろうか。僕が答えずにいると、佐々木さんはキスしてきた。 「一緒に、いようよ」 ああ、もうそんな顔と声でお願いされたら、断れない。僕は小さく頷いた。 翌日。目が覚めると、佐々木さんはすでにいなくて、僕は一人、佐々木さんの香りを感じながら身支度をして鍵をかけた。僕は【レコメンドブックス】に行く前に、【ランデブー】へ鍵を持って行くことにした。 佐々木さんはいつから僕を好きでいてくれたんだろう。どっちが先に好きになったんだろう。そんなことを考えているうちに自然と口元がゆるんでしまう。ああ、そう言えば昨日と同じ服を着て【レコメンドブックス】に行ったら、安田さんがまたからかってきそうだなぁ。まあ、いいか! ふんわりとパンの焼ける香りがいつものように漂う。【ランデブー】のドアを開けようとしたとき、内側から開いて佐々木さんが出てきた。いつものコック帽とコックコート。でもいつもと変わったのは、僕たちの関係。 「おはよう、和馬くん」 「おはようございます…唯史さん」 【了】
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