2 社長就任初日

6/6
前へ
/211ページ
次へ
 ――ま、まさかっ! もう約束を破るつもり?    戦うポーズで身構えると、要人は私を無視し、男子社員たちの前に立つ。  机の上に手をのせ、要人は挑発するかのように、高身長を生かし、男子社員たちを見下ろした。 「営業部まで案内してもらえるか?」  要人の低い声が、重く響いた。    ――なにこの凄味。普通にお願いできないの?  そう言いたかったけど、ぐっとこらえた。  ここで、なにか言おうものなら、私の手堅い人生設計と平穏な日々が消えてしまう。 「は、はい」 「こちらです」  怯む社員達の中で、湯瀬さんだけが前に出て対応する。   「俺が案内します。どうぞ。仁礼木社長」  さすが営業の仕事をしているだけあって、いろんな人間の扱い方を心得ているようだ。  湯瀬さんは挑むように、要人と対峙している。  でも、他の営業部の男子社員たちは、慌てふためき経理課から出ていった。  要人はそれを冷ややかに眺め、まだ私の机に手をのせている。  そして、ちらりと横目で私を見て、要人は小さい声で言った。 「志茉。バカみたいな顔をしてたぞ」  ――そして、離れる。 「誰が馬鹿面よっ!」  イラッとしながら、湯瀬さんを連れ、去っていく要人の背中を睨みつけたのだった。
/211ページ

最初のコメントを投稿しよう!

6941人が本棚に入れています
本棚に追加