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そこで私はハッと気付く。アレ?師匠、何処に向かってる?もしかして、もしかしてーーー!
私の動揺が伝わったのか、師匠は底意地の悪い笑みを浮かべた。
「あぁ、大浴場だよ」
そして私は、渾身の力を振り絞り逃げようとするが「あ、まだ動ける?」とキラリと師匠の瞳が光ったので、潔く脱走するのを諦めた。
そして案の定ーーまだ誰も入っていないーー浴槽に嬉々として投げ飛ばされたのだった。
風呂から出てきた私は、肩までの髪をドライヤーで乾かす。その横で、師匠はテキパキとスキンケアをしていた。
「私がやってやるよ」
いや、結構です。と答える前に、ドライヤーを奪い取られた。後ろから乱暴にガシガシと髪を扱う師匠の顔には、コットンパックがされている。おそらくその待ち時間として、私にちょっかいを出したのだろう。
熱風で8割程乾くと、次は冷風に切り替えた。私はギュッと目を閉じる。そんな私に
「…ナギ、身を委ねると言うことを知った方がいい」
と師匠は言うが、少なくともその相手は師匠ではないのは確かである。
風呂から出て廊下を歩いていると、向かいから見知った人物たちがやっていた。相手も私達に気がつくと、笑顔で声をかけてくる。
「相変わらず、師弟仲が良いね」
「まぁな、私は優秀だから」
この節穴が、と私は相手ーーー風見の教育係である常盤を下から睨んだ。その様子に風見が気付き、苦笑する。
師匠は「私の言葉が間違っているか?」と意地の悪そうな顔をしてきた。私は首を横に振る。
ーーー貴女が言った"私は優秀"と言う言葉は、間違ってはいないよ。
口には出さないが、師匠には伝わったのか満足そうな笑みを浮かべた。しかし常盤は眉を八の字にして「相変わらずだなぁ」と声を出した。
「ナギは相変わらず無口だね」
「内心では饒舌だぞ。それに誰に似たのか知らないが、なかなか口も悪い」
それは君の影響だな、と常盤は溜息を吐く。声には出さなかったが、流石にそれは師匠じゃなくとも、私や風見でも読み取れた。
師匠は「違う、おそらくフルメンのせいだ」と笑いながら反論すると、
「そうだ、総帥が君たちを探していたよ」
常盤は思い出した様に言った。師匠は「うわっ」と顔を顰める。
嫌々そうな声で愚痴を吐いた。
「どうせ厄介事を押し付ける気だ。今は教育に専念したいって言ったのに」
「その厄介事を学ばせるのも、教育の一つって思ってるんじゃないかな」
そう言って、常盤は私をチラッと見た。しかしすぐに視線を師匠に戻す。
その行為の意味を、私は知っている。
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