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窓を開くと、澄んだ空が広がっていた。
空のなかの1点が、次第に大きくなる。
遠くから、灰色の鳥がこちらに向かってやって来た。
すると、背後で大人が騒ぎ出した。
何してるの?
と尋ねると、おじさんたちは口々に答えた。
「バードウォッチングだよ…」
60歳は越えているだろうと思われる男たちは、それぞれがカメラを携え山小屋の窓から外を覗いていた。
玲の話によると、おじさんたちはいつもこの時期になると、趣味で野鳥を観察に来るらしい。
ふ~ん…
変わってる
鳥が珍しい生き物だと意識したことはない
山を歩いていると、いつの間にか視界の片隅にいる生き物。
それを見つけたとき、嬉しそうに笑っているおじさんたちの行動は、何だか不思議に思えた。
しかし、次第におじさんたちの表情は曇っていった。
喚起の声が消え、沈黙の時が流れた。
「野鳥じゃない…」
山小屋から窓の外を見つめてい人々の注目を集めながら、鳥は窓枠に降りた。
その灰色の鳥は、鋭い羽を広げた。
鉄のように、冷たくてかたい身体。
かたちは似ているが、私が知っている鳥とは違う。
玲が近づき、鳥の足に結わえてあった紙を取り外すと私やおじさんに状況を説明した。
「鳥のかたちをしたドローンですよ…山を降りたところにある大学の研究なんです…うちも協力をしていましてね…お騒がせしてすみません…」
おじさんたちは、鳥に近づくと暫くのあいだ珍しそうに眺めていたが、やがてひとりずつその場を離れ、共有スペースでくつろぎはじめたり、自分の部屋に戻っていった。
玲は、おじさんたちの動向を笑顔で眺めていた。
鳥の周囲から人がいなくなると、先程、鳥の足から取り外した紙を広げた。
玲はいつもの硬い表情に戻り、鋭い視線で紙を見つめていた。
「もうそんな時期か…」
そう呟くと、玲は大きなため息をついた。
「時、おつかいを頼む…」
そのとき、玲が握りしめていた紙から黒い糸がはらりと落ちた。
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