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黒い糸の正体は、髪だった。 しかも玲の話によると、それは玲の頭髪だったらしい。 玲は自分の頭からいくつか髪を抜くと、和紙に包んで私に手渡した。 私が手の中に小さく折り込まれた和紙を茫然と眺めていると、玲が口を開いた。 「街に行く道の途中で分かれ道があるのを覚えているか?いつもは街に行くので右側を選ぶと思うけど、今回は左側の道を歩いて行くんだ…すると、青いトタンの古びた小屋がある…そこにいる男に包みを渡してくれ…」 「分かった…」 街には、里花と一緒に何度も行ったことがある。 玲の話していた分かれ道も知ってはいるが、いつもは自動車のなかから過ぎていく景色を眺めていただけなので、ちゃんとたどり着けるかなんとなく不安だ… でも、多分大丈夫… 大丈夫というか、きちんとやりとげたい。 玲に頼られるのは、はじめてだから… しかし、何で髪の毛なんだろう? 私は疑問を感じながらも玲の喜ぶ表情が見たいと思ったので、この奇妙なおつかいを引き受けることにした。 ぼんやりとした記憶をもとに、1時間程歩いた。 玲から言われたとおりに左側の分かれ道を進むと、雑草が茂る敷地のなかに青い小屋が見えた。 草のなかに踏み込むと、小屋から長髪の男が出て来た。 彼は絡まった髪に手櫛しをしながら、私に視線を向けた。 「おや…珍しいお客さんだ…」 大きな眼鏡に、柔らかい笑顔。 その表情に安心した私は、小屋を訪れた目的を思い出した。 「これ…」 玲から預かっていた包を小屋の主に差し出した。 すると、彼は目を丸くして黙り込んだ。 「どうしたの…」 「いいや…君は、もしかして玲のところのお嬢さんかい?」 「うん…」 「そうかい…ひとりでこんなに遠くまでおつかいなんて、偉いね…」 「偉いの?それって何?」 「君がすごいっていうこと…」 すごいの意味は分からないが、質問し過ぎると彼も玲のように不機嫌になりそうなので、深追いはしないことにした。
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