鳥と芝生はどちらが青い?

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「まぁ確かに安定はない世界だろうけどさ、応援してくれる人がいるし、演技が好きなんだろ?なんだかんだうらやましいよ。俺は好きな事やるとか、そういう発想すらなかったし。大体、サラリーマンにファンなんかいないからな?」 片桐の気まずいぶっちゃけが引き起こした沈黙に耐えられず、俺は必死にフォローをひねり出した。いつもそうだ、いったい何をフォローしているのだろう俺は。片桐みたいに好きでなにかをやっているわけではないのに。不穏な空気を感じると、頭より本能でなんとかしなくてはと必死になってしまう。 俺が小学校の3年くらいからか、両親は不仲になった。父の不倫が原因だった。母は父を責めて、父はあまり家に帰ってこなくなった。そして姉が中学になるころには、姉は不良になり、高校を中退したあとに家出して行方がわからなくなった。そんな父や姉を見ていたら、俺だけは母の味方になってやらなくてはと、いつもわざとふざけて明るく振舞い、勉強も就職活動も頑張った。 そして俺は、大手金融会社のシステム部に勤務している。システムといっても専門的な部分はシステム専門の会社に発注するのでシステムエンジニアというよりも、システム会社とのやり取りやシステム導入時の社内の各部門との調整が多い。皮肉にも俺はこの仕事に向いていた。みな自分の事しか考えず、予算やシステムの都合などを無視して、好き勝手を言う。それをあの手この手で宥めすかして、なんとか着地点までもっていくのが俺の仕事だ。このごろ思う。何のために必死にやっているのだろう?と。俺がおどけて頑張っても家族の仲は元に戻らず、母は姉に会いたいと言いながら、闘病の末に昨年亡くなった。 ただただ虚しかった。今も会社の仕事は真面目にやっているが、所詮惰性でしかなく、好きなことをしている片桐のYouTubeを見るといたたまれない気分になった。
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