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「朝倉もさ、家事と子育てとパートだろ?三足のわらじ履いてほんとすごいよ。ぼくは仕事だけだし、それもただ単に実家を継いだだけだからさ」
来る日も来る日も同じ生活。それを後何十年も続けるのか、ぞっとして気が遠くなる事がある。ぼくの実家は住宅街の中にあるパン屋で、祖父が開業し、父が継ぎ、そして今はぼくが店主をやっている。毎日早朝からパンをこねて、店頭でパンを売り、夕方には店を閉める。
大学を出てほんの数年サラリーマンをしていたが、職場の人間関係がうまくいかず、店を継ぐことを言い訳にして辞めた。それ以来15年ほどずっとこの生活をしている。幸い祖父の代からあるこの店は、近隣にパン屋がない事もあり客足も安定していて、大儲けには程遠いが生活に困ることがなかった。就職活動に苦労せずにいられたことにも感謝している。この緊急事態宣言中も店は営業できているし、売上も減っていない。ほんとうにありがたいことだ。でも、ぜいたくな悩みなのはわかっているがどうしても思ってしまう。ぼくは何一つ自分で手に入れていない、と。退屈は人の頭を蝕み、思いもよらぬ行動をとらせてしまうことがある。それがこのオンラインでの同窓会だ。
こんなオンラインでの同窓会も企画するつもりなんかなかった。でも毎日が退屈で、それを不満に出す事もできなかった。当たり前だ。自分探しの大学生じゃない、もう立派なおっさんがそんなことをいっても周囲は困惑するだけだろう。平穏で何よりじゃないか、その環境に感謝すべきだと言ってくるに違いない。そんなふうにぐるぐる考えていたら、酒量が増えていった。朝起きるのが辛くなってきたとき、このままエスカレートしたらまずいと思った。とにかく何か別の風景が見たい。でも今の世の中遠出もできないし、人と会うことも難しい。そんなときテレビで見たのが、オンライン飲み会だ。これだと思った。小学校から高校までの仲間は近所にいるから、そんなキャラじゃないのに誘うのは憚られた。だからとりあえず、大学時代の仲間にメールを送ってみた、もちろんアドレスが変わっていてメールが届かなかったこともあった。片桐にはダメもとでSNSのアカウントに直接メッセージを送った。
何のためなのかわからない飲み会だが、とにかく今までと違う何かをやりたかった。
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