鳥と芝生はどちらが青い?

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 「やっぱお前は今でもカッコイイな!髪もあってうらやましいぞ。ちょっと分けてくれよ!」 「そーよ、片桐君みたいな四十歳中々いないよ~。もうみんなおじさんなのに、一人だけお兄さんだよね。若く見えてうらやましいよ。私ももうすっかりオバサンよ。」 宴もたけなわ、話題も尽きかけた所で、画面の向こうからすっかり額が後退した吉川が酔っ払いながら言い、そして老眼鏡をかけてややほうれい線の目立つ朝倉がしみじみ言った。 そらそうだ。この見た目があるからこそ俳優なんてもんになろうとしたんだ、オレは。 「ありがとな~」 とりあえず無難な返事をした。容姿を褒められることには慣れている。 「さすがイケメンは余裕の返事だな。悔しいぞ、チクショー!」 大学時代の面影も見る影もなく太った織田が、間髪いれずツッコんでくる。 「いやいや、みんなでもオレみたいに不安定な立場になりたいか?ぶっちゃけイヤだろ?」  最近のコロナの話題と学生時代の思い出話のなかで、本音が見えない上滑りの会話に居心地の悪さを感じていた俺は、ふいに魔が差して突然切り込んだ。 そのときオンライン同窓会を始めてから約一時間が経過していた。  ちょうどオンライン同窓会への招待のメッセージが届いたのは約一週間前。コロナ禍の緊急事態宣言の最中だった。ゴールデンウイークも出かけられないし、オンライン飲み会の相手を探していた織田が企画したのだ。  俺は昔から見てくれはよく、学生時代にはサークルや飲み会など、よく声をかけられた。  そのうちの一つ、演劇サークルの誘いに乗ったのが運の尽き。そこで役を演じる楽しさに目覚め、周りも俺の容姿と演劇センスを誉めそやし、俺はすっかり俳優になるものと思い込んだ。大学を卒業した俺は、オーディションを受けながら、アルバイト生活を続けた。運よく小さな芸能プロダクションの目に留まり、そこに所属することができ、演劇や歌のレッスンを受ける事ができた。昼ドラで三番手の役を得たり、チラシのモデルをしたり、まずまず順調な俳優生活だった。でもそこから上へは、一向に行けなかった。容姿がよく、演技がうまい俳優など吐いて捨てるほどにいる。そこで一つ抜きんでるには、事務所の力、大物に気に入られる、面白い作品に出演する、などが必要だ。俺はそのどれも手にはできなかったし、それを手繰りよせる運の良さもなかった。  そんなふうにしているうちに、どんどん年をとり、今は俳優と名乗るほどに俳優業をしておらず、アルバイトをしている時間のほうが長いという体たらくだった。そのアルバイトもコロナでシフトに入れず、ほとんど無職だった。わずかなファンへのYouTube配信が仕事なくらいだ。 この頃思う、普通に就職活動をしていたら、どんな人生だったのだろうかと。
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