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終わりは始まり
若き神が天界に戻って、一カ月後。日本発展推進機構という立派な看板を掲げた建物にある応接室で、1人の若き神様が、偉い先輩神様と対面していた。
「いや~、ご苦労様! 社長が喜んでたよ! とても良い出来事を成し遂げてくれたって」
「はあ……、そうですか。それは何よりです」
「まあ私が書いた台本『桃太郎』ありきの成功だけどね。いや~、台本と違う所は多々あったけど、良しとしよう。だって、人々の間で、かっこよくデフォルメされた話に変わっていっているからね」
若い神の手によって起きた出来事は、とても珍妙であったために、人々の話題となった。『桃太郎』の基となる出来事は、今はかっこよくデフォルメされていて、鬼ヶ島という所に、桃太郎が仲間とともに船で渡り、勇敢に戦い、こらしめた、となっている。多くの人々の心を掴む、おとぎ話にふさわしい形に。
ほんとは、桃太郎一行が酔っ払いの大男をふんどし一枚にひん剥いて、犬、猿、雉の責めでイカされて戦闘不能になった、という珍妙な出来事なのだが……。
若き神は苦笑した。事実はおとぎ話より奇なり、と言えばいいのだろうか。まあ、無事に仕事を達成したんだ、良しとしよう。
「でね、その成果として、君、課長に昇進だよ」
「ほ、ほんとですか! あ、ありがとうございます!」
若き神は色めきだった。これで、この上司と同じ階級。もうこいつに振り回されずに済む。
「あっ、ちなみに私も階級上がってね、部長になったよ」
その言葉に、若き神は驚愕した。てめえ、何ちゃっかり手柄受け取ってんだ。ほとんど俺の手柄だろうが。
若き神が怒りで震えていると、上司の偉い神様は恐ろしい事を口走った。
「うちの社長がさ、気を良くしちゃって。次の新しいおとぎ話の基となる事実を作って、ってまたお願いしてきてさ」
「なっ!?」
「はい、これ! また台本用意しているから!」
若き神にまた、新たな台本が渡された。触れると、若き神の頭に内容が流れ込んでくる。
『金太郎』
「なっ、何ですかこれ!? 全裸の男の子が『金』と書かれた前替えを付けて、大きな鉞(まさかり)担いでるって!?」
「ほら、主人公はインパクトが大事じゃない」
「いやいや!? ちょっと待ってくだ――!?」
若き神の足元に突如、転送用の魔法陣が発現した。
「今から出張扱いにするからね。じゃあ、『金太郎』っていう、おとぎ話の基となる出来事を台本通りにやってきてね! あっ、期限はまた7日間だよ。えっと、行先は日本のとある上空。頑張って」
「いやぁぁぁぁー!? どちくしょうがああああああッッー!!」
若き神の足元の魔法陣が眩い光をはなった。そして若き神は、また新たなおとぎ話『金太郎』の基となる出来事を起こしに、旅だったのだった。
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