若き神様、おとぎ話「桃太郎」任される

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若き神様、おとぎ話「桃太郎」任される

 ここは天界。多くの神様が暮らしている世界だ。日夜、地球に暮らす人間の幸せのため、一生懸命に働いている。その様子は、例えるなら公務員。神様は、意外と地道で大変なものなのだ。  とある天界の一角に、日本発展推進機構という立派な看板を掲げた建物がある。そこにある応接室で今、1人の若き神様が、偉い先輩神様に呼び出されていた。 「君に頼みたい仕事があるんだよ」  偉い先輩神様は、立派な椅子に深々と座りながら、満面の笑みを浮かべた。嫌な予感がする。こう切り出されたときは、たいていろくな仕事ではない。 「おとぎ話、というものを知ってるかね?」 「おとぎ話、ですか? たしか……、とある出来事を基に、人間達が作った空想的な物語ですよね。楽しくて面白い、と好評で、豊かな想像力を育むのにとても良いと聞いております」  西洋国発展推進機構にいる仲間から、そんな話を聞いていた。今あちらの担当の神様達は、おとぎ話の元となる出来事の作成に力を注いでいるらしい。  西洋で広まっている『赤ずきん』『白雪姫』などのおとぎ話は、何らかの事実を基に出来ている。その出来事は、神様が意図的に作り出したもの。それらが、人から人へ伝わる内に色々と脚色され、最終的に多くの人々の心を掴む『おとぎ話』へと成長するそうだ。人間とは面白い生き物である。 「さすがうちの若きエリート神様! 話が早い! うちの日本発展機構でもね、おとぎ話の元となる出来事を作ろうってなったんだよ。うちの社長、すごくやる気でさぁ~。会議で私に熱く語ってくれたのよ~」 「は、はあ……」 「だから、良いおとぎ話の基となる出来事を今から作ってきてね」 「なっ!? わ、私がですか!?」  おかしいだろ。てめえの仕事だろうがっ。 「そういや、もうすぐ昇進の時期だよね。社長にどの人を上げるか相談しないといけないな~」 「その、お仕事、お受けします」  若き神は色めきだった。野心家なのだ。 「さすが、うちの若きエース神様!」 「では、おとぎ話の基となる出来事について、考えるお時間をいただきたいのですが」 「大丈夫! ちゃんと私が台本を用意してるから! はいこれ」 「え? こ、これは……」 『桃太郎』と、表紙に書かれてある台本。手に触れると、若き神の脳内に、その内容が流れ込んでくる。思わず驚愕した。なっ!? なんじゃこの内容は!? 「『桃太郎』っていう、おとぎ話の基となる出来事だよ。正義が悪を懲らしめる、をテーマにしてるんだよ」 「いや、あのこれ!? こ、この出来事、いきなり冒頭からとんでもないことになってますがッ。なんですか、これ、大きな桃(人間の赤ん坊が入るサイズ)が川から流れて来るって」 「主人公の登場はインパクトないとね」 「いやいや!? もっと、現実味のある登場に考え直してくださ――!?」  若き神の足元に突如、転送用の魔法陣が発現した。 「今から出張扱いにするからね。じゃあ、『桃太郎』っていう、おとぎ話の基となる出来事を台本通りにやってきてね! 使用する小道具類も一緒に送ってあげるから安心して。あっ、ちなみに期限は7日間だよ。失敗したら、やばいよ~、クビとか……(ボソリ)。えっと、行先は日本のとある上空。今は春っていう季節を迎えてるんだって。桜っていう綺麗な花が見れるらしいよ~、羨ましいなあ。じゃ、頑張って」 「いや、ちょっと待ってくだ――!? いひゃあああー!?」  若き神の足元の魔法陣が眩い光をはなった。そして、若き神は日本のとある上空へ飛ばされた。
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