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お別れ
「父上、母上!!」
「おおっ! 桃太郎!!」
次の日の朝、桃太郎一行は、町で購入したお土産の品々を荷車に乗せ帰ってきた。荷車は、問屋の息子である大男が引いている。
「桃太郎や、心配してたのじゃ。その様子じゃと、鬼をみごと退治したんじゃのう」
「はい! ここにいる仲間とともに」
桃太郎は側に居た、犬、猿、雉に目配せした。老夫婦は目を見張った。だが、優しい笑みを浮かべた。
「そうかえ、そうかえ。はて、そちらの体格の良い男も仲間かえ?」
問屋の息子である大男は体を強ばらせた。すると、桃太郎は優しく笑って答えた。
「はい!」
大男は目に涙を浮かべた。「これからは精進します」と丁寧に礼を言うと、胸を張って帰っていた。
若き神はタイミングを見計らって、桃太郎に声をかけた。
『桃太郎よ。鬼退治をよくやりとげましたね。感謝しています』
いや、ほんとに。一時はどうなるかと思った。
「もったいないお言葉です。これからも、人の心に巣くう鬼が現れれば、退治していきます」
『良き心構え。それを聞いて安心しました。私の役目もここで終わりです』
桃太郎をはじめ、老夫婦、犬、猿、雉は、どこか涙を滲ませていた。若き神も少し感慨深かった。くそ上司(偉い先輩神様)の台本に付き合ってくれた、良い仲間である。別れが惜しい。
『それでは、皆さん、お元気で……』
若き神は別れの言葉を告げた。すると、若き神の体が浮遊感に包まれる。気付いたら、天界へと帰還していた。
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