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「強いて言えば、世界全体として、あちらとこちらが繋がりやすくなる。ヒトと精霊が近くなるということだ。要は戦乱期以前の環境に戻る」
「……戦乱期以前って、よく解らないけど。循環してない今でも、精霊領域はあちらが閉ざしていない限り普通に触れられるんだけど? あえて、循環を再開させる意味って何?」
「風通しをよくしておくためだ」
「えーと、それって、あちらばっかりエネルギーを溜めるようなことを避ける為?」
「ちょっと違うが……まぁ、間違ってもいない、か?」
ゲンが、渋い顔で頭を掻くと、反対側の隣にいたサラがふふっと笑った。
「ハイシロが好きなミルクティに入れる砂糖とミルクのバランスみたいなものよ。砂糖だけでもミルクだけでも美味しいミルクティにはならない。砂糖を入れることになったのならミルクも入れましょうと、そういうこと。朱の国の精霊領域が開放されるのなら、こちらの領域も開放してバランスを取る……そういうことよ」
「で、この森が玄の国側の精霊領域?」
「正確には、かつて黒い森の南に位置していた我々の領域だ。竜の力で隠していたものをここに移した」
「え? ちょっと待って混乱してきた」
ハイシロは頭を抱えた。
てことは、自分は、ヒトなのか? 精霊だったのか?
「その区別に意味はない。ここで胆になるのは、其方ら双子が循環の再開に加担するというそれだけだ。循環が再開すれば、世界は元に戻る」
呪術師がハイシロを見上げた。
そういえば、さっきも……。
ハイシロは、呪術師の黒い瞳を覗き込んだ。
呪術師は心が読めるのか?
「私は、何をすればいいの?」
「そこに居ていただくだけだ。『居ること』に意味がある。いずれ、ツキシロ殿も『居ること』の意味を自覚される。さすれば、循環は再開する。それまでは、祭を楽しんで『その時』を待っていようぞ」
呪術師は、カラカラと笑った。
「はぁ?」
ハイシロは眉間に皺を寄せた。
今現在、遥か南に居るツキシロが、私が辿り着いた答えに同じく辿り着いた挙句、火の山の精霊領域に行くと確信しているような言い方だ。はたして、そんな偶然が起こりうるのか?
「まぁ、細かいことはよい。祭は始まったばかりだ。ハイシロには我々の領域を案内せねばな。会わせなければならぬ相手も居ることだし。付いてくるとよい」
ゲンはたてがみを揺すって笑うと、先に立って歩き出した。
< 終わり >
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