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「闇の季節でも診療室の仕事はあるでしょう?」
「でも、当直制になっちゃうから、いつもシロネリ先生やキナリ先生と会えるわけじゃないもん」
これは、遠回しに一緒に行きたいってことなのかしらね?
ハイシロは天井に視線を泳がせながら思案した。でも、今回は自分自身のプライベートな問題だ。いかなフレアと言えど、付いてこられるのはちょっと違う。テンのこともあって、ここのところフレアが凹んでいたのは知っている。独りが怖くなる気持ちも、解らないではない。
ハイシロはフレアの額にそっと手を当てた。
「いきなり放り出された気持ちになっちゃって、それは不安かもね。でもね、独りの時間も大事よ。テンだって頑張ってるんだから、フレアもここでちょっと成長しなくちゃ」
「それ! このブレスレットの件だって、わたし何も聞かされてないんだけど!」
フレアが険のある声で抗議する。
しばしの静寂。
ハイシロは、小さく溜息をついて、部屋の奥に来るように促した。フレアを寝所の文机に備え付けの椅子に座らせると、ハイシロはベッドの端に腰かけた。
「フレア、あなたの記憶にはないんだけど、実は、夏の終わりごろ……泉で溺れかけてるのよ」
「え? 溺れた? わたしが? 一体なんで……」
「解らない」
ハイシロは、首を振った。でも、多分、テンは真相を知っているころだ。
「あなたの落ち度ってことは、まず無いと思ってた。誰かが引きずり込んだのだろうと……。ただ、それが誰なのか分からなかったの。解っていたのは、あなたを泉から遠ざけたい、ひいてはテンから遠ざけたいと思う存在が居たってこと」
あえて、過去形で話す。フレアは、険しい表情を崩さない。
「時間を……戻したの?」
「そう。あなたを助けるためにね」
「なんで直ぐに話してくれなかったの?」
「話したら、あなたはどうしたかしら?」
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