洞窟の小人

1/3
前へ
/13ページ
次へ

洞窟の小人

 黒い森の官舎は石造りの堅牢な建物だった。  寒気を防ぐために窓などの開口部は小さく作られており、出入口の風防室は二重に設えてあった。暗くなりがちな室内を少しでも明るく見せるために、内装は白い漆喰。調度品は明るく彩られ、ラグ、キルトの類には華麗な草花模様があしらってある。  裁縫好きのハイシロは思わずクロスの刺繍に見入ってしまった。全て、カスミの母の手によるものだ。  カスミの父コズミは、カスミからの手紙を受け取るとハイシロの黒い森への再来訪を喜んだ。前回は、小人の呪術師を訪ねる要件が主だったため、カスミの家族とゆっくり話す暇もなかったが、今回は闇の季節中の滞在だ。 「小人方々の黒夜の祭りは、正直私どもだけが楽しんで良いものかと思う程の盛大な催しなのですが、何せここは僻地。王宮からご招待した方々を満足におもてなし出来る程の設備がありませんし、そもそも主催者側である小人方々が外部からのお客に積極的でない状態でしたので長らく内密にしておりました」  滞在中ハイシロに使ってもらう居室へと案内しながら、コズミが説明した。  まだ暗い早朝に王宮を出立して夕刻早くに着いたはずだったが、辺りはもう真っ暗で居室までの廊下は壁に設えた灯火が頼りだ。 「急な来訪で申し訳ないです。いくらか足しになればと滞在中の油と薪は積んでまいりましたが、どれほど入用か見当もつかず、足りるかどうか……」  ハイシロがすまなそうに言うと、コズミが振り返って、いやいや、と手を振った。 「お気持ちだけでもありがたい。それに、祭りが始まってしまえば、実のところ灯りは要らないのです」 「え?」  驚いて瞬くハイシロに、コズミは悪戯っぽく笑った。 「はじまれば、わかりますよ」  コズミ夫妻には子どもが三人おり、上二人は男子で王宮内の地理測量院に務めている。多分、ツキシロは一緒に仕事をしたことがあるはずだ。カスミは末っ子長女で長らく夫妻の元で過ごしていたらしい。 「カスミはここでの生活が大好きで王宮へ出たがらなかったのですが、縁があって本当に良かった。来春、シラユリが歩けるようになった頃に、ここに会いに来てくれると約束しているのです」  カスミの母シラハナは、嬉しそうに言った。
/13ページ

最初のコメントを投稿しよう!

4人が本棚に入れています
本棚に追加